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それはまるで乱入者みたいです

 絶望的としかいえない状況。

 拳に爪が喰い込むほど悔しい。

 ですけど、今の私達は魔神皇の戯れに付き合う以外方法がありません。

 でも安易に屈するのはノルン家の家訓に反します。

 だから私は私に出来る範囲で最大限の事を為すのみ。

 意識の無いルシウスを抱き締めながら私はそっと指を滑らせます。

 しかし覇王の遺産に守られたルシウスをこうも容易く昏倒させるとは……今のはどのような術式だったのでしょう?

 魔方陣内という枠組みを誇張していたからには、おそらく個別の対象を取らない範囲系。

 さらに個人の魔術抵抗レジスト値に絡んではいない。

 となれば許容値に満たない者全てを巻き込む強制系。

 これらを大陸規模でやってのけるというのですから世界蛇、ひいては魔神皇の力の質が窺えます。


「……やってくれたな、魔神皇」

「ああ。流石のそなたでも――ここまでは『視え』なかっただろう?

 因果干渉系の編成は骨が折れるが……

 どうやら上手くいったようだ。

 今この瞬間から――

 歴史はあるべき本流から行き先の知れぬ支流へと流れが変わった。

 この先の未来はそなたにも読めぬ筈。

 これでやっとそなたの限定的な未来改竄能力を封じれる。

 まあもっとも――」

「なんだ?」

「それこそ――そなたが一番望んでいた展開なのではないかね、ユリウス」

「否定は――せん」

「ユリウス様……」


 なじる様に問い掛けてくる魔神皇の言葉にユリウス様は顔を俯かせます。

 心配するように寄り添うセバスチャン。

 ですがユリウス様は毅然と顔を上げると魔神皇を正面から見据えます。


「だが私は気付かされたのだ。

 変えられぬ未来に安易に絶望するのではなく、

 自らが何を大切にしなくてはならないかということを。

 そして今、私はこのランスロードの王だ。

 さらには大陸連盟の長でもある。

 ならばここで屈する訳にはいくまい」


 ユリウス様!

 そこには以前見られた様な、待ち受ける死を望んでいた廃人の様な面影は一つもありませんでした。

 一国の王として、そして何よりもルシウスを含む家族を守護る父としての気迫が漲ってます。

 いったい何が彼をそこまで変えたのでしょう?

 何故かセバスチャンが私を見てうんうんと感謝と同意の目線を送ってきてるのが不可解ですが。

 けどせっかくのユリウス様の宣言も魔神皇に対し何の感銘も与えた様子はないようです。

 呆れた様に大袈裟な肩を竦めます。


「それはそれは。

 大した決意だ、ユリウス。

 どうやら我の知るそなたと今のそなたは別人らしい。

 きっとどこぞのお節介が余計な事をしてくれたのだろう」

「そうだな」

「迷惑な話だ。

 けどこの状況下では――我の提案に乗るしかあるまい?」

「忌まわしい事に、な」

「まずは重畳。

 では決闘といこう」

「何故貴様は決闘等を考える?

 ここまで用意周到に事を為したのだ。

 望む様にすればいいではないか?」

「弱者を踏み躙るのは我の流儀ではない。

 五分五分フィフティーフィフティーとは言うまい。

 だがそこに幾ばくかの可能性がなくばつまらんではないか。

 それに我にも欲しいものがあってな」

「欲しいもの、だと?」

「そうだ。

 王家の秘宝が一つ、神担武具<皇断鋏プレンズザッパー

 堅い封印に守られたアレを持ち出すのは我等でもさすがに困難でな。

 決闘の際の賞品として我はそれを望む」

「貴様!

 まさかアレを使うという事は――」

「おっと。

 その先は秘密にしておくがいい、ユリウス。

 ここには人が多い」

「くっ」


 押し黙るユリウス様。

 神担武具とは遥か神話の時代、滅びゆく神々がその身を宿したとされる武具の事です。

 私の御先祖様である光明の勇者アルティア・ノルン。

 彼が振るったという、剣皇姫ヴァリレウスの宿りし聖剣シィルウィンゼアなどがそれに当たります。

 先程説明したイデア値の高さ。

 積み重ねられた世界認識値、更には聖剣に宿る特性が使い手に絶大な力を与えてくれます。

 それがどれほどのものかというと、ひよっこの戦士が手にしただけで巨人族を一撃で絶命させるくらい。

 歴戦の使い手が持てばまさに恐るべき脅威となります。

 ですが言い換えれば所詮武具は武具。

 担い手との絆が生む神々の擬似的な具象化、伝説の神性覚醒を扱えたとしても<琺輪アカシックレコード>が管轄する世界結界を揺るがす事は出来ません。

 何故こんな遠回りに、しかも執拗に狙うのか奴等の動向が正直読めません。

 ユリウス様の驚きぶりからすると、何やら秘密がありそうですが……


「勿論そなたらの勝利の暁には、人質というと語弊があるが……魔方陣内の者達の覚醒を促そう。

 それに我等を斃せば魔方陣も崩壊する。

 そなた達にとってはまさに一石二鳥ではないかね?」

「……決闘といったな。

 どのようなものを考えているのだ?」

「時刻は明朝、夜明け前。

 場所はロムニョウム大闘技場の遺跡がよかろう。

 ここから大分離れてはいるが転移宝珠を使えば問題はあるまい。

 我等もそこで待ち受ける。

 決闘参入者は――

 そうだな、12名としておこうか」

「随分多数だな」

「そなたらの不利に変わりはないからな。

 我も魔将と手勢を率いて相手をしてやろう。

 ただし――参入者はこの場にいる者だけ、とさせてもらう。

 余計な者達を招いてはいらぬ混乱を招く」

「それでは――」

「外部沿岸諸国の強豪を招けぬ、か?

 嘆くな、ユリウス。

 幸か不幸かこの場には強者が集っているではないか。

 かつての勇者とその仲間共に琺輪の守護者、果ては異国のサムライ達まで。

 まずはその幸運に感謝して諦めるとするの――」

「その言葉に――」

「――二言はねえだろうな、魔神皇!」


 勝ち誇った様に決闘条件を述べる魔神皇。

 余裕綽々のその言葉を遮る様に、

 突如瑠璃宮に響き渡る深海の様に落ち着いたバリトンと、威勢のいい甲高いソプラノの二重奏が魔神皇へ突き刺さるのでした。

 




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