表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

336/403

それはまるで壊廃人みたいです

 風と氷を纏った斬撃。

 完全な前衛職で無い私が、辛うじて視認出来たのはその軌跡です。

 まるで瞬間移動の様な間合いの詰め方(瞬歩というらしいです)

 からのサムライ戦闘技法抜刀術<居合>の一閃。

 それはこの世界に置ける比類無き剛剣の一つ。

 さらにその一撃には諸天と呼ばれる亜神の加護を得た属性も乗るのです。

 いかに六魔将とて必滅は免れないでしょうが……


「なかなか酷い真似をする。

 せっかくの一張羅が台無しではないですか」


 倒れ伏したバレディヤが肩を竦めます。

 言葉と共に両断された切断面から迸るのは無数の触手。

 人と妖魔の合成体である六魔将。

 深淵の呪教授と呼ばれるバレディヤの<タイプ>は眼球妖魔バグズベアード

 多彩な特殊能力に加え対魔結界と強力な再生能力を持つ厄介な妖魔です。

 案の定、致命的だった筈の一撃は瞬時に再生され何事もなく立ち上がります。


「そして――吾輩に手を出すという事がどういう意味を持つか、理解しているのでしょうな?

 仕方ありません。

 余分な血は流したくないのですが……これも我等が主たる魔神皇様の為。

 吾輩は心を鬼にさせてもらいます。殺れ」


 懐中時計から照らし出される映像に向け、指を高らかに鳴らすバレディヤ。

 閉眼したその表情はワザとらしい沈痛な面差し。

 しかし数瞬後、その顔が驚愕に見開かれます。

 無理もありません。

 人質を取る為、展開している悪漢達。

 その事ごとくが白目を向いて倒れ伏したのですから。


「これは、いったい……」

「分からないか?」


 突然の事態に困惑するバレディヤに応じる声。

 瑠璃宮の外から投げ掛けられた威厳ある声に対し、私は驚きます。

 まさか当人がいらっしゃるとは……

 刹那の間もなく開かれる扉。

 セバスチャンと共に入室してきたのは、ルシウスと同じ金髪碧眼の壮年の男性。

 40を越えているのに、老いを感じさせない若々しく整った容姿。

 きちんと手入れのされた髭がいぶし銀の様な渋さを醸し出してます。

 以前お伺いした時に比べ何よりも違うのは頭部に頂く王冠。

 それはこのランスロードの正式なる統治者の証。

 即ち――


「ユリウス・ネスファリア・アスタルテ・ランスロード……

 まさか御身自ら赴かれてくるとは」

「私は貴様達ミズガルズオルムを過小評価していない。

 常に最大限の警戒と権限を以って当たっている」

「となると、吾輩が手配した者達があのようになったのは……」

「無論、私の力<未来視>によるものだ。

 貴様達がこの会議場を襲う場面は『観えて』いた。

 貴様達もあのマリーの力を使って『観て』いたのだろう?

 だからこそ事前に、しかも的確に人質となり得る者達を把握出来た。

 ならば対処は簡単だ。

 こちらも同様に調べ上げ、対応をすればいい。

 御苦労だったな、ウラジーミル」

「御意」


 来訪したユリウス様の労いに応じるのは王立諜報機関シャープネス長官ウラジーミル。

 ドヤ顔で言い張るからには根拠が……とは思ったのですが、こういう事だったんですね。

 先程ルシウスとバレディヤが門答している時にルシウスから転送され来たのは上記の内容。

 つまりこの襲撃はユリウス様の力によって事前に予想されたものであり、人質たちは無事であるということ。

 だからこそ私の力を知るルシウスは影の束縛を消す為の要請をしてきたのです。

 私を含め戦闘職の者達にとっては少しの枷くらいでしたが、耐性の無い円卓メンバーにとっては戒め以外の何物でもないから。

 しかし真に恐るべきはユリウス様の未来視能力です。

 敵に回しても圧倒的な恐ろしさを感じますが、味方サイドだとさらに理不尽ぷりが際立ちます。

 普通だったら詰みの展開。

 しかし盤面を引っ繰り返すどころか遊戯そのものを変更するくらいの脅威。

 だって事前に敵の規模も襲撃方法も襲撃時間も把握出来るんですよ?

 う~ん……普通に考えてマジでチートですね。

 未だ展開されている映像には室内に強行突破で雪崩れ込み悪漢達を束縛する王国兵達の姿が写っています。

 しかし50人近い悪漢達を一斉に気絶スタンさせるのはいったいどうやったのでしょう?


「だがあそこにいるのは吾輩の配下の者でも屈指の者達。

 そう簡単にやられる訳がないのですが……」

「ああ、レベルもさることながら各種魔導具で補強されているしな。

 通常なら各人に一個小隊を投入せねばならぬだろう。

 だからこそこちらも最強の切り札の一つを切らせてもらった。

 万が一の事態を起こす訳にはいかないからな。

 助かました、イズナ殿」

「うん。お役に立てたのなら何より」


 勇者職はその性質上王権に屈する事はありません。

 私的ならともかく公的には各国の王と対等なのです。

 よってイズナさんに頭を下げるユリウス様という光景も不思議ではないのですが……

 ホント、どうやったのでしょう?


「どういうことですかな?」

「イズナ殿の異名を忘れたか?」

「<雷帝>……

 雷を統べる者。まさか――」

「そうだ。貴様らが襲撃してくる場所も人数も把握している。

 ならば事前に罠を展開すればいい。

 たかが47人の者を同時にスタンさせるなど……

 先代勇者たるイズナ殿にとっては造作もない事だ」

「だね」


 いやいや。

 その判断はおかしいです。

 つまりあれですか?

 イズナさんは時限式の遅効雷撃術式を複数同時展開していたということですか?

 人質に危害が及ばない様、出力を調整しながら。

 だって47個ですよ?

 王宮魔術師レベルさえ通常並行運用できるのは3つが限界ですよ?

 マジでおかしいレベルですってば。

 ユリウス様の説明に皆納得してますし。

 私は改めて壊れ性能なこの世界の勇者職の力を実感するのでした。









 生来勇者であるイズナの壊れ性能っぷり。

 これだけのスペック差を見せつけられたら、そりゃ~ルナも心が折れる訳です。

 まあ称号勇者であるユナの曽祖父アルもかなりのチートっぷりでしたが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ