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安堵、らしいです

「じゃあ……まずは小手調べといこうかな」


 先制したのはパンドゥールの術式です。

 パンドゥールの影から伸び出る巨大な影の腕。

 私達の方へ向け指先を向けると、その指先が鋭い槍の様に形状変化し、

 矢継ぎ早に襲ってきます。

 攻撃を事前予測をしていた私達は、充分距離をとって回避します。

 が、逃れた先の足元より襲来する闇の咢。

 静止する事も出来ず転がる様に横へ飛び難を逃れます。

 無論抵抗しない兄様達ではありません。

 ミスティ兄様は指輪の加護を使い束縛を試みようとし、

 シャス兄様は準備してた弓矢を目にも止まらぬ速さで射掛けます。

 けど、


「無駄無駄無駄ぁ~」


 パンドゥールが展開した闇の盾に全てが遮られ……

 いえ、呑み込まれてしまってます。


「アレはまさか……」

「ああ、多分な」


 兄様達もそれを見て苦い顔で頷き合います。


「何ですか、兄様」

「アレは多分……伝承に聞く闇魔術の守護術式<隔絶されし影の纏い>

 かつて魔族の女王、暗天蛇が得意とした術法です。

 二次元を媒介とするその障壁は絶対無比の鉄壁さを持つと聞きます」

「え!? じゃあ……」

「ええ。現在奴を止めるのは難しいでしょう」

「忌まわしいことに、な」

「へえ~随分と詳しいんだね、君。

 今はこの術法を知る者なんて誰もいない筈なんだけな~。

 ……ボク達の主、魔神皇様を除いてはさ」


 攻撃の手を休め、パンドゥールが興味深そうに聞いてきます。


「ちなみに先程ボク達を襲ったのは<闇を喰らいし獰猛なる咢>ですか?」

「そうそう。

 いや~本当に何者なんだい?

 あまり詳し過ぎてちょっと怪しくなってきたよ」

「話す謂われはありません」

「まあそうだね」

「ただ……少しだけ訊きたい」

「ん? 図々しいな~君。

 ま、どうせ殺すからいいよ。

 最後だし特別に答えてあげよう」

「何故、一角馬を狙う?」

「ん? まあ別に一角馬でなくても良かったんだよ。

 この時期は力に溢れた幻獣達がここに集うからね。

 ほら、見て見て」


 ローブをはだけるパンドゥール。

 そこには……


「……ひどい」

「何でこんな……」

「悪趣味だな」


 そう、ローブの内側には無惨にも切り取られた幻獣の部位が連なってました。

 鷲獅子グリフォンの嘴、天馬ペガサスの翼、飛竜ワイバーンの爪等。

 鮮血が乾いていないものもあり、つい先程まで生きていた証を主張してます。


「いいコレクションだろ?

 これらは儀式に使うんだよ」

「儀式?」

「そう。偉大なる魔神皇様の完全なる復活へ向けての儀式さ。

 そこの一角馬君の角も貰っていくかな。

 一角馬の角は治癒の力を秘めてると聞くしね。

 ……さあ、時間稼ぎは終わりだよ」


 宣言するパンドゥール。

 私達も薄々気付いてました。

 何故パンドゥールが流暢に長話に付き合うのか。

 それは……


「グギョ」

「ギギギ」


 そう、いつの間にか姿を現したゴブリン達に私達は囲まれてたのでした。

 おそらくはパンドゥールが呼び寄せたのでしょう。

 その数は少なく見積もって100以上。

 闇魔術師であるパンドゥールを前にして絶望的な数です。


「こいつらは探索用に確保したボクの手下だ。

 馬鹿だけどそれなりに役に立つしね。

 さあお前達、こいつらを嬲り殺せ。

 ボクだと一息で殺しちゃうからね。

 なるべくイイ声をあげられるよう、じっくり殺るんだよ?

 うまくいったら褒美をあげる」


「「ギャギャギャ!!」」


 歓声を上げるゴブリン達。

 舌なめずりをして観戦するパンドゥールを後ろに、

 各々武器を取りその包囲網を狭めてきます。

 恐怖を煽る為なのか、その足取りは非常にスローです。

 背中を寄せ合い防御陣を形成する私達。

 こうすれば多少は死角が潰せます。

 緊張に汗ばむ手足。

 そんな私の背後では、


「そこを右……真っ直ぐ抜けて。

 ……ああ、泉を前に……」


 譫言の様に呟くミスティ兄様の声。

 恐怖の為におかしくなってしまったのでしょうか?

 いえ、ミスティ兄様はそんな弱い人ではありません。

 ならばこれは間違いなく、


「さあ殺せ!」

「ギョギョギョ!!」


 パンドゥールの声に応じるゴブリン。

 一斉に武器をかざし突入してきます。

 ……間に合わない、のでしょうか?

 ならば最後まで諦めずに戦うのみです。

 安易な絶望に屈したりしません!

 そう決意した私達が身構えた。まさにその時、


「ノルファリア練法<斬風>!」


 私とは段違いに練られ高純度化した闘気。

 それが鋭い刃の様な衝撃波となり私達に迫ったゴブリン達を薙ぎ払います。

 ただの一太刀。

 それだけであれだけのゴブリン達は半壊しました。

 安堵する私。

 砕けそうになる足腰を奮い立たせ、苦心しながら声のした方を向きます。

 剣を構えた鎧姿の青年。

 知的で優しい姿は鳴りを潜め、今は見た事も無い厳しい顔で動向を窺ってます。

 その隣には痛ましい顔をして今にも泣きそうな杖を持った美しい女性。


「私の可愛い子供達を殺す、だと。

 ふざけるな。

 寝言は、寝てから言え」

「大丈夫だった、みんな?

 よく……頑張ったわね」



「「「父様(父さん)! 母様(母さん)!!」」」


 

 まるで英雄叙述詩のような登場シーン。

 視界が滲んでいくのが分かります。

 我慢しようとしましたが、駄目です。

 嬉しくても人は泣けるのですね。

 そこにいたのは私達の大好きな両親。

 カルティア・ノルンとマリーシャ・ノルンが駆けつけてくれました。


  




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