それはまるで勇者様みたいです
瑠璃宮はその名の通り瑠璃<ガラス・ラピスラズリ>がふんだんに使われた、王宮にある一室です。
会談や国家間での密議などにも使われる場所で、抗魔術を含む防諜設備が整えられています。
しかし何より眼を見張るのはその内装でしょう。
硝子工芸品や瑠璃製の芸術的作品が所々に置かれてあり、しかもそれが嫌味にならない配置であざやかなアクセントを為してます。
差し込む光により青みがかった煌めきが瞬く様は、まるでここだけ別世界の様な印象すら受けます。
そんな瑠璃宮の中央に置かれたのは不格好な黒檀の円卓。
急に運び込まれたのでしょう。
この場に不釣り合いなほど頑丈で実用性バリバリな品です。
そこに腰掛けてるのは12人の人達。
ルシウスによって扉が開かれた瞬間、皆が一斉に直立します。
知っている顔に知らない顔。
私達を見て微笑む者。
逆に訝しげな顔をする者。
噂だけですが聞いた事もある人もそこにはいます。
とりわけ目立つのは円卓中央部にいる青年です。
爽やかな感じのするイケメン。
なのに父様を含むこの場の誰よりも圧倒的な力を放つ存在。
私の頬を汗が伝います。
この人は――ヤバイ。
もし彼が本気になっただけで、この場の全ての者が倒されてしまいそうなほどの力量差。
私はそっと不死鳥の羽根が内蔵されたアタッチメントに手を伸ばします。
それはシャス兄様も一緒の様でした。
弓では間に合わないと思ったのでしょう。
腰の後ろに据えられた短刀の柄に手を添えてます。
決して油断出来る相手じゃない。
でもこの人……
どこかで見た事があるような……?
周囲に漂う緊迫した雰囲気。
しかしそれは入室してくるなり驚いたルナさんの声によって打ち砕かれます。
「……あら?
誰かと思えばイズナじゃない。やっほー」
「やあ、ルナ。久しぶり」
ズコ。
あまりもフレンドリーなやり取り。
まるで道端で旧友に再会したかのよう。
緊張してただけにその糸が切れた時の反動も大きいです。
「お、お知り合いですか、ルナさん?」
「知り合いも何も……
ユナちゃん知らないの?
ほら、こいつが前に話した……」
「貴様!
何故ここにいる!!」
ルナさんの声を遮ったのは続いて入室してきた父様です。
いつになく厳しい顔をしています。
無造作にイズナと呼ばれた青年へ近付くと正面から向かい合います。
「やあ、カル――」
「よくもおめおめと顔を出せたな!」
気さくに話し掛けてイズナに向け、父様が刀に手を置きます。
やめてください、父様!
あまりの無謀ぶりに私が止めに入るよりも早く――
空間を揺らす波動。
鍛えられた私の眼には闘気で模られた無数の刃が父様より放たれ、その事ごとくがイズナに防がれたのが視えました。
睨み合う両者。
次の瞬間、お互いに破顔し合います。
「うん。腕は鈍ってないようだね」
「よく言う。
お前もな、イズナ」
まるで旧来の親友かのような打ち解け振り。
今は気軽に胸を小突き合ってる……っていうかじゃれ合っていますし。
その変わり様に私達は呆気に取られます。
「やはり間違いない、か」
「知ってるの、ネムレス?」
「ああ。
彼こそ先代の――」
「そう、勇者イズナだよ~」
勿体ぶった言い回しのネムレスに肩を竦めるルナさん。
無言で抗議するネムレス。
ああ、解説したかったのですね。
少し拗ねた様なその様子が可愛らしくて思わず苦笑しちゃいます。
そうですか……彼が噂の。
どこかで見た事があると思ったらアレですね。
ルシウスと出会う直前、ファル姉様に見せて頂いた魔導念写の中央にいた青年だったのです。
先代勇者<雷帝>率いるS級パーティ<雷神の右腕>。
そのリーダーで父様や母様、ルナさんやガンズさんと交遊を図っていた人。
功績等によりクラスチェンジした認定勇者でなく、秘められた資質によって選ばれた真の勇者。
その力は強大で、比喩的な表現でなく一軍に匹敵する程。
でも噂に付き纏う威圧感(圧迫感はありますが)などはなく、どうも気さくな人の様です。
今も御挨拶に行った姉様に笑顔で応じてますし。
例えるならダムに似ているでしょうか?
悠然としていて強固なダム。
大きな力を湛えているのは分かりますが、しっかり管理されているイメージ。
正直いえば少し怖いですけどね。
ミスティ兄様を超える力を持つ人がまさか存在するとは思わなかったので。
ん? でもあれ?
10年以上前にパーティを結成していて、その時と姿が変わっていないような……??
ま、あれですよね、ほら。
例外もいますし……あまり深く考えない事にしますか(うん)。
私は「何でござる?」と小首を傾げ無言で尋ねてくるソウジに首を振り何でもないと伝えます。
まあそんなサプライズがありましたが、ルシウスの指示で私達も取り敢えず空いている席に着席させられます。
「よし、全員座ったな?
では待たせたな、皆。
先程連絡のあったユナ達がこうして到着した。
さっそくで悪いが会議を始める事にしよう」
「それですがルシウス様……
いったい今日はどのような集まりなのです?
この間の功労会で見掛けた方々も幾人かいらっしゃりますが……
それにこの面子。
どうやら穏やかな事態ではないようですな」
「そうだな、まずはその事から触れるか」
初めて見る、身なりは良いもどこか神経質そうな中年男性からの質問に、ルシウスはしみじみと頷きます。
「本日はいきなりの招集に応じていただき感謝している。
今日皆に集まってもらったのは、ある災厄に対抗する為だ」
「災厄、ですと?」
「ああ。
この皇都どころではない。
世界全体を巻き込みかねん程の、な」
「なっ!」
「いくら皇たるユリウス様の勅命とはいえ、俄かには信じがたい話ですな」
「まあ余も正直信じきれぬ。
ただ父上の未来視は絶対だ。
それはお前達も知っているだろう?」
「ええ」
「まあ――確かに」
「だからこその招集……
お前達には万全を以って事に当たってもらいたい。
猶予はあと3日。
早急に的確な対処ができない場合――
最悪、この世界が滅ぶ」
顔に似合わないルシウスの陰鬱な声。
その衝撃の内容に、私達以外のメンバーは大きくどよめくのでした。
お待たせしました、更新です。
最近色々あってスランプ気味で……更新が滞って申し訳ないです。
完結に向けて何とか頑張っていきます。




