それはまるで告発者みたいです
「はぁ~い♪
皆の心のアイドル、ルナさんの登場だよ~~
……って。
な、何なの!? この殺伐とした場!!」
宙に浮かぶ転移魔方陣。
宝珠の力により転移してくるなり、魔法少女よろしく決めポーズ。
片目を瞑り舌を出して可愛さアピールをするのはルナさんです。
ちょっと年齢的に厳しいところがあるのは仕方ありません。
しかしノリノリで転移してきたルナさんに対する皆のリアクションは無反応。
どこか沈痛な面差しで指し示すのは父様の方です。
訝しげな顔のまま向きを変えるルナさん。
その目前で繰り広げられるのは、超高速の斬撃の嵐。
さらに湧き上がる血煙。
愛嬌を浮かべる間もなくドン引きしながらツッコミを入れてます。
「ルナか……」
リューンを刻む手を止め、ゆっくり振り返る父様。
いかなる技法が用いられたのでしょう?
恐ろしい事に返り血を一滴も浴びていません。
だというのに、何だか殺人鬼な雰囲気を漂わせていますし。
血を吸い過ぎて、名刀というより妖刀みたいな感じの童子切も一役買ってます。
「いいところにきたな……」
「ひっ!」
「今、罪深きモノを裁いたところだ……」
「そ、そうなの?」
「――ああ。
人は罪に応じた罰を受けねばならない。
君もそう思わないか、ルナ?」
「ご、ごめんカル!」
「……何が、だ?」
「マリーにカルの性癖を教えたのはあたしなの!
ホント、ごめん!」
「何を口走ってる!?」
「だってエプロンドレスを着たままがいいとか、
たまには眼鏡を掛けたままがいいとか、
そういうの純粋培養なマリーには耐性がないから!」
「あれはお前の仕業だったのか!」
平身低頭。
父様の殺気に当てられたのか、はたまた自分が弾劾されると思ったのか。
いきなりとんでもないことを自白し始めるルナさん。
っていうか、子供の前でそういう話はやめていただけませんか?
私と兄様の冷たい視線を浴びながらも二人は舌戦というか言い争いをしてます。
場の雰囲気が絶対零度近くまで冷え込んだ時、
「いい加減にしろ」
静かなのに凄まじい威圧感を湛えたネムレスの一言。
ただそれだけで二人とも正気に返ります。
「今は何より時間が貴重だ。
いつまでそうしているつもりだ?」
「す、すまない」
「ごめんなさい」
「責めている訳ではない。
ただ世界蛇<ミズガルズオルム>という組織を侮ってはならないという事を忘れるな。
こうしている間も着々と準備を整えているのは確かだ。
それに、俺や皆も直でやり合ったから実感しているだろう?
奴等の所持する戦力を。
魔将クラスともなれば所持した特性次第では英雄レベルに匹敵する。
特にソウジやカエデ――
君達の実力を疑う訳ではないが、心しておいてくれ。
同行してもらえるのは有り難い。
だが敵の力量は想定の更に上をいく」
「ユナやシャスから概要は聞いているでござるよ。
ただ――守護者殿」
「ん?」
「あたしたちの力も舐めて貰っちゃ困るよ。
伊達や酔狂で十二聖に選ばれた訳じゃないんでね」
凛々しく応じる二人に一本取られた顔をするネムレス。
男臭い笑みを浮かべ首肯します。
「そうだな。
では――お手並み拝見といこうか」
「うむ」
「構わないさね」
「まっ、あたしで良ければ簡単に手解きするけど?」
「お前は一言多いな、タマモ。
というか、お前は魔将と相対してない」
「あにおー!(ふん)」
「まあまあ、二人とも。
ここは喧嘩してもしょうがないですよ?(魔笑)」
「こわっ!
怒ったおねーちゃんよりも、キレる寸前のシャスが一番怖い!」
「それは否定しませんけど」
「はいはい、そこまで。
それでは話もまとまりましたし……
転移をお願いして宜しいですか、ルナ様」
「了解~
って!
あたし相手にレカキス家の御息女がそんな口調で話さないで下さいな!」
「あら?
だって今のわたくしはカル様に仕えるただのメイドですわ。
ならば何の問題もないのではなくて?」
「ですけど。
ああ、もう。
分かりました~。
それじゃ転移するよ~
皆、準備は大丈夫?」
「こっちは大丈夫です」
「ユナに同じく」
「うん」
「じゃあ転移するね」
「あ、そういえば!」
「どうした、ユナ」
「父様やソウジ達の事を麓の大使館に知らせなくていいのです?
このままだと私達も二重遭難扱いになってしまうんじゃ」
「あはは。
平気だよ~ユナちゃん」
「え?」
「皆が向こう(王都)に着き次第、生存報告を含めた魔導電報入れる手筈になってるよ~
だから安心して。
そこまでちゃ~~んと読んで動いてるから」
「ルシウス様が、ですか?」
「ううん。
そんなの――決まってるでしょ?
あたしが本当に仕えるのは……
ユリウス様唯一人、なんだから」
「あっ」
未来視――
いえ、正確には<琺輪天啓>。
琺輪と霊的に共鳴する事により、無数に分岐し本来は知り得ない因果からの結末を把握する。
どこか遠い目をしながら私にそう告げたユリウス様の顔が思い浮かびます。
>これから先、この世界には未曾有の危機が迫る。
私はその被害を少しでも抑えるべく力を尽くす。
人々は私の統治を賢皇の再来と持て囃すだろう。
しかし……そこに私の心は無いのだ。
ただ無感情で無感動で義務的で事務的な対応を続けるだけなのに。
ユリウス様が告げたのはこの一連の世界蛇の騒動なのでしょうか?
……いえ、違います。
確かに守護者たるネムレスが動く世界の危機ではあります。
ですが――何でしょう?
私の直感が、もっと最悪の事態を想定させるのです。
言い知れぬ不安に胸が押しつぶされそうになる私。
そんな私の様子を案じてくれたのでしょう。
寄り添ってくれた兄様とリューンがそっと背中を支えてくれます。
手に込められたぬくもり。
鼓動と共に伝わるあたたかさが私の心を優しく宥めてくれます。
――ですよね。
今は目の前の事から順番に対処しなくちゃいけませんよね。
毅然と面を上げた私の前で宝珠の転移演算が終わりを告げます。
「それじゃ、行っくよ~
行先は王都ランスロード<瑠璃宮>へ!」
空間に迸る莫大な魔力。
いにしえの魔導技術によって作られたそれは私達を包み込むと、遠く離れたレムリソン大陸へと瞬時に転送させるのでした。
お待たせしました、更新です。
新規お気に入りの方、初めまして。
拙い小説ですけど、もう少しでクライマックスなので応援宜しくです^^




