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それはまるで策謀者みたいです

 転輪皇。

 それは御伽話に聞く魔族の王の名です。

 精神生命体であるが故に、自らの本質をアストラルサイドに置く魔族。

 彼等が現実世界に干渉するには物質化マテリアルアドバンテージが必要となります。

 伝承にある魔族の個体差はこの際に媒介した生物の違いによるものですね。

 そんな彼等にとって王や女王の存在は別格です。

 6つある魔族の階級。


 王 級<キング>

 女王級<クイーン>

 城塞級<ルーク>

 司祭級<ビショップ>

 騎士級<ナイト>

 兵士級<ポーン>


 この中でも特に王と女王が種族としての精神的柱を担っており、精神生命体である彼等は王と女王を中継しなければ現実世界での活動が出来ないという弱点があります。

 勿論色々な抜け道はあり、物語等で不幸な冒険者や主人公が遭遇するのはそういったハグレ魔族になります。

 こういった意味合いでいえば、新たな魔族の系譜ともいうべきゾアブリットの存在は脅威であるとしかいえません。

 独立した生命体として自立した彼等は、王や女王の存在を必要とはしないのですから。

 まあ彼等が人類に敵対せず半ば隠遁した生活を過ごしてる事に感謝しなくてはならないでしょう。

 魔神皇だけは別みたいですけど。

 そんな魔族ですが、何が厄介といえば間違いなく個としての強さです。

 最下層の兵士級ですら、1体を相手取るには騎士一個小隊か術師のバックアップを受けた熟練冒険者1チームが最低ライン。

 騎士級クラス以上は英雄レベルの力が必要となります。

 今でも残る恐ろしい逸話として、私達の先祖である光明の勇者の英雄譚が参照になります。

 100年前にあった前大戦こと、人類存亡を懸けた最終決戦。

 結成された諸国連合軍5万は1体の魔族に壊滅させられました。

 復活した魔族の女王<暗天邪ミィヌストゥール>

 その強大な力は図り知れず、女王の根城に奇襲を掛けた曾御爺様である勇者と、人族の限界値である100レベル近い英雄達で結成された<100人の勇者隊>でしたが……生き残ったのはたった12人だけ。


 光明の勇者アルティア

 暁闇の賢者ミーヌ

 歪曲の導師エゼレオ。

 終焉の神官フィーナ。

 静寂の闇使カイル

 雷切の志士イザナ


 等々、後の世に名を残す者達ばかり。

 しかもその彼等をして、女王に勝てたのは万に一つのマグレと称するのだからどれだけ、って感じです。

 まあそんな訳で、2体いる女王の1体でそれなら……更なる上位存在である王が復活したらどうなるの、ということですが……


「わたしがオモイカネ様に尋ねたのは世界蛇の不可解な行動だ。

 例えば先の王都での騒動も聞かされたのだが……

 大変だったな、シャスにユナ」

「いえ、僕は……」

「はい、私も……」

「口に出さずとも良い。

 マリーの体に寄生してる6魔将に遭遇したのだろう?

 その事も聞かされているので気にしなくていい。

 必ずマリーは取り戻す。

 それだけは絶対だ」

「父さん……」

「父様……」

「ネムレスにタマモの活躍も聞かされた。

 本当にありがとう」

「俺は守護者として当然の事をしたまでだ」

「あたしだって別におねーちゃんを守る為にやっただけだし~」

「素直じゃないな」

「あん?」

「いや、何でもない(苦笑)

 ただ皆……

 王都の悪夢と称されるこの襲撃、どこか違和感を感じなかったか?」

「え?」

「ああ」

「はい」

「やっぱり……そうなのですか、父様?」

「忌々しい事だが」

「どういうこと?」

「それはなタマモ、奴等はわざと手を抜いていた。

 いや、違うな。

 犠牲者の数を調整していた節がある」

「はあああああああああ!?

 そんな訳ないないでしょ?

 結構バンバン死んでたんだよ!?」

「兵士や冒険者など王都防衛に携わった者は、な。

 それらに比べ民間人の犠牲者は恐ろしいほど少ない。

 皆無ではないし、6魔将や放たれた妖魔が人々を殺して回っていたことも勿論知っている。

 ただ……それでも少な過ぎる。

 王都の人口は100万を超える。

 それなのに犠牲者は5000人超。

 亡くなった方々の無念、この事件の理不尽さは理解してるつもりだ。 

 ただ防衛機能が上手く作動してたとしても、あまりにも少な過ぎたのだ」

「その事は私も懸念してました。

 何か別な目的があるのではないか、と」

「ユナの指摘は尤もだ。

 実は……今回この王都以外にも大陸各所で十何箇所か虐殺事件が起きてるのを知ってるか?」

「いえ……」

「初耳です」

「そうか。

 ファル、大陸地図を。

 あと何か書ける物をくれないか?」

「かしこまりました」


 魔導書から取り出した大陸地図に父様は赤ペンでチェックを入れていきます。

 数を増していく内に私は気付きました。

 これはもしや……


「父さん、これって……」

「なるほどな」

「ああ。

 犠牲者の血と苦悶によって描かれた魔方陣。

 奴等はこの魔方陣をもって転輪皇が封じられた北壁を開放するつもりらしい」


 陰鬱に話す父様の言葉に、私達は再び声を失い沈黙するのでした。







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