それはまるで所持者みたいです
「――どうして、なんですか……
姉様、どうして!」
「それはね、ユナ様……
わたくしが――愛してしまったから」
「――え?」
「あの方を独り占めしたくなってしまった……
他の誰にも、渡したくないほどに」
「だからここに父様を?」
「ええ。
ここならば誰にも見つからない。
わたくし達だけの楽園。
けど……貴女達は来てしまった」
「はい」
「ならばわたくしは立ち塞がらなくてはならない。
今の、この掛け替えのない時間を守り抜く為……」
「分かり――ました。
終わらせましょう、姉様。
罪を清算し――あの満ち足りた日々に戻りましょう」
「いいわ。
かかってらっしゃいな、ユナ」
「いきます!」
再会と決別。
私は哀しみを込めて退魔虹箒を顕現させると、かつて姉様と慕った人へと矛先を向けるのでした――全てに、決着をつける為に。
「お~い、ユナ?」
「あの~ユナ様?」
「――というのが、私が瞬時に考えたストーリーなんですけど……」
「馬鹿者」
ゴン!
「いたっ!
い、今本気で頭を小突きましたね、ネムレス!」
「当然だ。
歴代勇者を支えるレカキス一族の娘にお前は何を言っている」
「だ、だって――
あまりにも姉様がラスボスモードな雰囲気で現れるから……」
「それにしても下世話にも程がある。
なあ、ファルリア?」
「――え?
そう……ですわね、はい」
「――何故、そこで目が泳ぐ。
擁護した俺の立場はどうなる(溜息)」
「ファルさん……まさか……」
「――なんてね。
ホンの冗談ですわ」
どこまで本気か分からない。
けど、ファル姉様は口元を押さえ上品に笑います。
ここまでのやり取りを静観していたソウジとカエデさんでしたが、敵ではないと判明したのか肩の力を抜きます。
「ふぅ……敵じゃないんだね」
「ええ、一応」
「あらあら。
酷いですわ、シャス様」
「勿体ぶった登場と思わせ振りな言動をするファルさんがいけないんでしょう」
「すみません。
お二人とは一月ぶりの再会ですので。
我を忘れてしまったみたいですわ(フフ)」
「レカキス殿の長女でござるか。
10数年ぶりでござるな」
「お久しぶりですわ、ソウジ様。
御挨拶に窺えず申し訳ございませんでした。
十二聖就任、おめでとうございます」
「いやいや。
拙者の功績だけではござらんよ。
皆の力添えがあってこその十二聖任命でござる。
しかし――そうか。
……あんなに小さかった女の子がもう成人したのでござるな。
拙者達も歳を取った訳でござるな、カエデ」
「そこであたしを仲間に入れるな!
まったく、叔父上みたいに歳の事をぐじぐじと……(ぶつぶつ)」
「皆、お主が行き遅れにならないか心配なんでござるよ」
「その時はお前に貰ってもらう。
そういう約束だったろ、ソウジ」
「ああ、えっと……
まあ~そうでござったか?」
頭を掻き韜晦するソウジの足を無言で踏むカエデさん。
甘々な雰囲気。
そういうイチャラブは二人きりでやればいいのです。
それにしても気になるのは父様です。
この騒ぎにもまるで意に介さず瞑想してます。
というより、まるで世界から隔絶されたようなこの状態。
これはまさか――
「ふむ。
カルを覆う――絶対結界。
この中にいる限り如何なる干渉をも受けないだろう。
これは君の業かな?」
「ええ、ネムレス様。
正確にはレカキス家に伝わる『これ』の力です」
ネムレスの指摘に一冊の本を胸元から出す姉様。
離れていても伝わる在り得ないほどの魔力。
あれは間違いなく――
「やはりな。
魔導文明より伝わりし魔導書。
レカキス家は継承管理者の家系でもあったな」
「詳しいのですね」
「仕事柄な」
「ええ、その通りですわ。
雪山に相応しくない、わたくしの軽装に疑問をお持ちになったでしょう?
ここまでは魔導書の基本能力<フォースフィールド>で切り抜けましたの。
わたくしのこのメイド服も<ドレスアップ>と呼ばれる魔導書の副産物ですわ。
所持者の身体能力何倍にも高め、魔導書固有の特殊能力を付与する。
伊達や酔狂でこんな恰好をしてる訳ではないんですよ?」
……すみません、思ってました。
明かされた姉様の謎。
世界蛇がやたらと姉様を警戒しているのでおかしいとは思っていました。
普段の姉様から戦闘力や魔力等は感じなかったから。
でもその秘密がやっと分かりました。
姉様はいにしえに栄えた魔導文明から伝わりしア-ティファクト<魔導書>の所持者だったんですね。
驚愕する私達を前にファル姉様は無垢な童女の様におっとり微笑み解説するのでした。
別シリーズとのコラボ。
魔導書と書いてデッキと呼びます。




