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戦慄、らしいです

『吾の名はリューンという。

 誇り高き一角馬の一族に連なりし者だ。

 此度はここ鎮守の森へ聖周期の祭に参加しに参ったのだが……

 こやつらの襲撃に遭ってしまった。

 君達がいなければ角を獲られ殺されていただろう。

 深く感謝する』


 深々と頭を下げる一角馬リューンさん。

 幻獣と云うのは気高いけど気難しいものだと父様からは窺ってました。

 予想以上に礼儀正しいその姿。

 私達は呆気に取られつつも、慌てて礼を返します。


「いえ、別に……当然の事をしたまでですし」

「だな。アンタ達にはこちらこそ感謝してるよ。

 幻獣が大地に力を注いでくれるからこそ、

 この周辺の作物は豊穣な実りをもたらしてくれるしな」


 普段は毅然とした兄様達がフォローを入れてます。

 見慣れないその姿がおかしく、私は苦笑してしまいます。


「あ、何だよユナ」

「ひどいな、ユナは。

 こう見えても一生懸命なんだよ?」

「ごめんなさい、ミスティ兄様にシャス兄様。

 でも兄様達が必死な姿を見るのはなかなか無くて」


 不貞腐れる二人に声掛け、機嫌を損ねないい様穏やかに宥めます。

 この辺はしっかりしてるといっても、まだまだ少年って感じです。


『君達は兄妹か?

 随分と仲が良いのだな』

「ああ、まあそうかな?

 歳が近いのもあるし」

「そうですね」

「はい」

「ま、こんだけ仲がいいのはアレだ。

 ひとえに俺の常日頃の行いの賜物だな」

「それはないですね」

「同感です」

「あ?」

「横暴な兄さんのやんちゃな挙動に脅える毎日なんですけどね」

「まったくです」

「なっ! お前ら!!」


 和気藹々(あいあい)と戯れる私達。

 リューンさんが優しい眼差しで見ています。

 存在するだけで圧倒されるその姿。

 流石は幻獣、って感じです。

 あれ?

 でも……

 脳裏に浮かぶ、ふと感じた違和感。

 私は訝しげに首を傾けます。

 様子を窺っていたリューンさんが語り掛けてきてくれます。


『どうした、ユナ』 

「あ、私の名を……」

『君がユナで、二人の兄がミスティとシャスだろ?

 命を救ってくれた者達の名は覚えさせてもらうさ。

 君達も吾の事は気安くリューンと呼んでくれ。

 その方が吾も嬉しい」

「えっと……ありがとうございます」


 幻獣であるリューンに名を覚えてもらう。

 英雄叙述詩っていうかライトノベルな展開にドキドキです。


「では一つだけ訊いていいですか?」

『構わない』

「どうしてあんなに苦戦してたんです?

 幻獣なら推定レベル60以上はある筈じゃ……」


 そう、それが違和感の正体です。

 本来ならゴブリンごときに幻獣が苦戦する訳がないのです。

 個体差もありますが、レベル差も充分ありますし。

 更に付け加えるなら幻獣特有の特殊能力もある筈です。

 大体戦うのが面倒なら走って逃げればいい。

 それなのに何であんな目に遭っていたのでしょう?


『そうだな。君の指摘通り、本来ならあんな輩に後れを取る吾ではない。

 ただ丁度禊を終え、力を注ぎ尽くしたとこを狙われたのだ。

 一定の理力を回復する間もなく襲われては、幻獣とはいえ流石に苦戦する』

「なるほど。そうでしたか……」

『だが、それ以上に疑問なのが』

「?」

『奴等が計略を練ってきたことだ。

 数に任せた単純な襲撃ではなく、

 吾が力を消耗し尽くす機会を窺い、

 逃げられない様に罠を張り、

 更には角のみを執拗に狙う。

 侮る訳ではないが……今までの奴等には見られなかった傾向だ』

「それってもしかして……」

『ああ、おそらく……奴等を裏で指示する者がいる』


 重々しく告げるリューン。

 その姿が、

 急に闇に閉ざされるや横倒しになります。


「え……」


 事態の成り行きに茫然とする私。

 何をする訳でもなく、地面に伏して昏倒するリューンの姿を見下ろします。


「いったい何が……」

「危ない、ユナ!!」


 私を抱えたシャス兄様がその場から飛びのきます。

 地面からサメの様に大きな闇色の咢が伸びあがったからです。

 鋭い刃の様な歯の連なり。

 アレに囚われればどうなってしまうのでしょう。

 続けざまにそれは中空の私達を捉えようと首をもたげますが、


「やらせるかよ!」


 ミスティ兄様が指輪の力で私達を捕捉。

 蔓ごと遠くに放る事で術の範囲から抜け出します。

 術……そう、これは術式。

 身を震わす私。

 突然の襲撃。

 警戒を怠らなかった兄様達のお蔭で何とか奇襲を避けられました。

 私だけなら苦も無くあの闇の咢に捕えられていたでしょう。

 ですが私が身を震わすのは別の理由。

 あの術式は私達の命を明確に狙ってきました。

 そこに殺意はありません。

 ただ邪魔だから排除する。

 そんな意図が見え隠れします。

 私は、そんな悪意を恐ろしく感じました。


「あらま。外れちゃったか」


 場違いに陽気な声。

 私達は聞こえてきた方を警戒します。

 ゆっくりと森の奥から現れたのは独りの青年。

 フード付きの黒ローブに身を包み、その顔を窺う事はできません。

 ただ、


「ま、いいか。

 ぜ~~~んぶ壊せばいいし。あは☆」


 狂気を孕んだようなその声色。 

 罪悪感の欠片もないその言葉に、

 私は取り留めもない戦慄を抱かざるを得ませんでした。





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