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それはまるで修験者みたいです

 肌を刺す様な冷気。

 季節が冬というのもあります。

 ですが一番の要因はこのフジの街の場所なのでしょう。

 標高4000を越す霊峰の麓にあるフジの街は海抜800メートル以上。

 単純に100メートルにつき1℃温度差が生じた場合、下界との気温差は10℃近くになります。

 調べた資料の中にも1年の半ばが雪に閉ざされた街、とありました。

 そんなところに誰が好き好んで……とは疑問に思います。

 けど霊峰ホウライはこの国の精神的な要らしく巡礼や何やらで訪れる人が絶えないとの事。

 実際に登山する人はそういませんが、そんな巡礼者向けに宿泊施設を増築していったのがフジの街の始まりだったみたいです。

 今では人口3000人、巡礼等の滞在者1000人という大所帯です。

 さらに祀り事や政務なども執り行う事が多い為、ここには各国の大使館も駐在されています。


「さて……どうやら無事に転移できたようでござるな。

 各人、特に変わりないでござるか?」

「ああ」

「ええ」

「うん」

「大丈夫です」

「ふむ。転移酔いもないみたいでござるな。

 ではさっそく移動するとしよう」


 皆の体調をざっと確認したソウジはそう言うと出口に向かい歩き始めます。

 慌てて後を追う私達。

 出口に立つ歩哨の兵に一言二言言うと、最敬礼で見送られました。

 入る時の審査が厳重な為、警備が緩くなるというのもあります。

 でも本人は否定するでしょうけど、やっぱりソウジの顔が効く、というのが大きいです。

 昨日からそっと窺ってましたが、ソウジを見るイズモの人達の視線には感動と畏敬の念が込められてます。

 春風の様に掴みどころのないソウジですが、十二聖という肩書きというか称号はかなりのもののようですしね。

 無言で歩むソウジの後ろを黙ってついていきます。

 鼻をくすぐる冷たさ。

 くしゃみしそうになるのを懸命に抑えます。

 少し寒さが堪えますね、ここは。

 私はそっと闘気を用いて身体機能を活性化。

 体温の上昇を図ります。

 そんな気の流れを察知したのか、ソウジが振り返ります。


「おっ。寒いでござるか、ユナ?」

「そんな事は……」

「遠慮はいらないでござるよ。

 異国の者にはこの寒さは相当辛い筈。

 ちょっと失礼するでござる」


 謝罪するなり、指先で不思議な印を刻み何やら呟くソウジ。

 すると不思議な事に、どこからか温かい風が吹いてきて私達を包みます。

 完全には寒さは消えませんが、容易に我慢出来るレベルになりました。


「これは……?」

「ほお、珍しい。

 ソウジは真言の使い手か?」


 疑問を抱いた私に代わり、ネムレスが尋ねます。


「真言?」

「魔術とは違う体系で成り立つ術式といえばいいか。

 制約は色々あるも、魔術に比べ汎用性が高い。

 ただ諸天と呼ばれる亜神達との契約が必要になるが」

「正解でござるよ、ネムレス殿。

 拙者は風天の加護を受ける身。

 こと風の扱いに掛けて、このイズモに置いて拙者の上を行く者はいないのでござるよ」

「それがソウジの強さの秘密ですか?」

「フフ……

 シャス、それは秘密でござる」

「な~に勿体ぶってるのやら。

 だってサムライでしょう?

 真言使いでしょ?

 だったら昔から決まってるし。

 ソウジの強さは刀技と属性の……」

「これこれ、タマモ殿。

 ネタ晴らしは良くないでござる……(トホホ)」


 賑やかに雑談をしながら松明に照らされた長い廊下を歩き、古びた階段を昇ります。

 そこは固く閉ざされた門。

 転移陣に繋がる箇所の為、警備も重々しいです。

 ですがソウジなら……ソウジなら何とかしてくれる!

 期待を込めた眼差しに苦笑しながら応じるソウジ。

 肩を竦めると警備兵に交渉しに赴いてくれます。

 流石に顔パスとはいきませんでしたが、ムネイチ様の用意してくださった許可証を示すと難無く開門されていきます。

 ゆっくりと開いていく扉。

 そこは木造で出来た大きな広間になっていました。

 無数の人々が行き交い、喧騒に満ちてます。

 まるで役所のようです。


「役所でござるよ」


 私の感想に応じる様に答えるソウジ。

 あ、やっぱりそうなんですね。

 受付嬢に懸命に窮状を訴える人々の様子は、どこか冒険者組合に通ずるものがあります。


「ここはフジの中心部にある合同官舎兼役所でござる。

 大使館の派出所もある。

 この奥でござるな」


 騒がしさが漂う広間を離れ、静寂に満ちた一角へ歩みます。

 板張りの廊下を進んだ先、そこには珍しく洋風のドアがありました。

 ドアに掛けられたプレート名は「ランスロード大使館」。

 どうやら間違いないようですね。


「ふう、間違わないで来れたでござるな」

「え……自信がなかったのですか、ソウジ?」

「ここは似たような造りが多い。

 ダンジョンでは迷わない拙者もここは結構惑わされやすいのでござるよ」


 解説しながらドアをノックし開けるソウジ。

 すると女顔で丸みを帯びたその形のいい額目掛け、

 ゴスっ!!

 鈍い音を立てて高速で飛来した杭に似た何かが突き刺さるのでした。




 気分転換に新しい小説を書きました。

「異世界デュエリスト」

 ユナシリーズと世界観は共通してるのでお暇なら是非とも読んでみて下さい。

 なんというか……良くも悪くも王道です(笑)

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