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閑話<守護者の溜息>

 夢すら視ない眠り。

 死んだような微睡みの中からの、強制的な覚醒。

 寝台として使われてる個別に設けられた冬眠装置から身を起こす。

 冬眠装置はまるで棺桶みたいな形状だが、その用途を考えればあながち間違ってはいない。

 守護者は基本不老である。

 恒常的な世界の運行を時折琺輪から命じられるも、任務以外は暇を持て余す者が多い。

 琺輪ここは何でも叶う所だが、俗物的な欲望を持った者は決して到達出来ない場でもある。

 だからこうした装置の厄介になり、待機をする訳だ。


「うっ……」

「起きた?」


 身を起こした俺の前にいたのは数少ない同僚の一人。

 レムリア・ノーフェイス。

 洒落っ気の無い短い銀髪に端正な容貌を持つ女性だ。

 これで愛想があればかなり異性の気を引くのだが……

 彼女はまるで機械の様に無表情。

 今はこちらの容態を窺う……

 のではなく、科学者の様に冷静に観察してきている。


(まあ愛想がないのは俺も一緒か)


 朴念仁、唐変木。

 よく言われるし、多少は自覚もある。

 覚醒後の混濁した意識の中、苦笑を浮かべる。


「どうしたの?」

「いや、何でもない。

 任務か?」

「ええ、琺輪が呼んでる」

「分かった」


 永続的な品質保持が為された保管庫まで赴き、装備一式を取り出す。

 愛用の双刃。

 使い込んだ赤衣。

 魔導具や予備の武具等。

 手早く確認し、身に着けていく。

 装置内では下着姿だったが、俺も彼女もそんな事は気にしない。

 いや、気にする感性が鈍化してしまった。

 着替える俺の事を無感動に見詰めてくるレムリア。 

 おや、珍しい。

 いつもの彼女なら用件が終わればさっさと立ち去ったものだが……


「――何か用か?」

「貴方、死ぬかも」

「それは随分と物騒だな」


 守護者として琺輪に選ばれるには唯一無二ユニークな特性が必要で――

 戦闘要員である自分の場合は<念法アストラルエンジェリング>になる。

 他世界との交渉や先導者ガイドを務める彼女が持つのは未来予知。

 正確に言えば分岐する運命への干渉能力。

 その余波として断片的な未来のヴィジョンが視えるらしい。


「今回の案件はかなりの難易度。

 協力者なくては貴方でも乗り切れない」

「そうか……」

「私も手伝う?」

「琺輪は何と言ってる?」

「貴方一人で対処すべき、と」

「ならば君の手を借りる訳にはいくまい」

「そう。

 ならば助言アドバイス

「?」

「黒髪の少女と少年達が困難に立ち向かう貴方の傍らに視える。

 協力を求めるといい。

 その子達は貴方にとっても掛け替えのない存在になる筈」

「……驚いたな。

 君の口からそんな言葉が聞けるとは」

「私だって……成長する」

  

 俺の率直過ぎる返答に憮然と――

 しかし照れ隠しの様に、はにかんだ笑みを浮かべるレムリア。

 他者に関わらず何事にも無感動だった彼女。

 そんな彼女から誰かを気遣う言葉が聞けるとは思わなかった。

 俺が知らない内に彼女が請け負った任務。

 それがどうやら彼女を良い方向へと変化させたらしい。

 自分も見習わなくてはならないな。


「忠告ありがとう。

 では……行ってくる」

「行ってらっしゃい。

 気をつけて」


 レムリアに別れを告げ、俺は赤衣を翻し琺輪の下へ向かった。















「貴方に行って頂くのは魔神皇と呼ばれる者の判別です」


 琺輪の間。

 そこは世界の根源意志たる琺輪と通ずる為に設けられた場である。

 色気もない大理石に似た広大な部屋。

 中央にあるのは機械仕掛けの女神像。

 有翼のそれが琺輪の意志を代弁する端末だ。


「魔神皇?」

「ええ、特定監視対象種族<魔族>より枝分かれしたゾアブリット。

 新しい魔族の系譜ともいうべき彼等でしたが……

 誕生の経緯ゆえか、一族のスタンスは俗世に対し不干渉を貫いてました。

 ここ百年は波風を立てる事もなく、問題に上がる事はなかったのですが――

 魔神皇と名乗る者が一族に生まれてから、少しずつですが不穏な動きが見られるようになっています」

「ほう」

「そしてこの者はどうやら異世界転生者である疑惑が強まってきました。

 言動と行動が、あまりにもこの世界の者とは懸け離れているのです」

「成程。ならばわたしの出番か」

「ええ。魔神皇と呼ばれる者に接近、その動向を確認。

 世界に不利益と判別出来れば、すぐに処断して下さい」

「分かった。

 始末屋たるわたしの本領を発揮するればいいのだな?」

「またそのような言い方を……

 守護者として厄介事を押し付けているのは否定しません。

 ですが、これも世界維持の為。

 誇りを持てとは言いませんが、もっと――」

「冗談だ。

 どうにも捻くれてしまっていてね」

「……まあいいでしょう。

 方法は貴方に一任します」

「了承した」

「では、すぐ転移に移ります。

 例によって貴方が捕えられ、あるいは殺される事態になったとしても――

 当方は一切関知しないからそのつもりで。

 成功を祈ります」

「毎回聞かされてるが、本当に素敵な職場だな」


 皮肉を込めた俺の言葉に応じる事無く、端末は無言のまま転移を実行。

 かくして俺は下界へと瞬時に転移するのだった。

 そこに待ち受けてる苦難と出会いとを、この時はまだ知らずに。





 誤字の訂正と書き足し更新。

 300話記念の番外編。

 ネムレスサイドからの視点です。

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