交戦、らしいです
昏い森を兄様達と駆け抜けます。
熱く、激しく、
冷たく、静かに。
呼吸が乱れ肺が酸素を求めていくのが分かります。
息苦しいのを強引に押し留め、私はそっと追走する兄様達を窺います。
ミスティ兄様は風の精霊の助力を得ることにより大幅に空気抵抗を下げ、
シャス兄様はもっと単純に膨大な魔力を放出する事により加速してる様でした。
二人に遅れない様、私も闘気を纏い身体機能の強化を行います。
やがて指輪の加護で開けていく視界の先、
美しい白馬がゴブリンの集団に襲われてるのが見えます。
ぱっと見たところ20匹近くはいるでしょうか。
白馬は懸命に抗うも、その数の多さに徐々に劣勢になるのが見て取れます。
ゴブリン達は白馬の特徴でもあり武器でもあるものを奪おうと必死でした。
美しい額に突き出る優美な一本角。
そう、白馬は幻獣たる一角馬だったのです。
初めて見る幻獣の姿。
自然が造形したとは思えないその幽玄ともいえる佇まいに息を呑みます。
でもこんな悠長にしてる暇はありません。
一刻でも早く助けにいかなければ、すぐにでも殺されてしまいそうです。
同じ結論に至ったのか、ミスティ兄様が私を見ながら怒鳴ります。
「このまま突っ込むぞ!
ユナ、共に前衛を頼めるか?」
「兄さん!」
「シャス、お前は弓で確実に仕留めろ。
俺はユナをフォローしつつ、あの一角馬を救う」
「しかしユナは……」
「俺達の自慢の妹だ。
ユナなら決断できる。
だからユナ」
「はい!」
「助けを求める命を救う為……
やれるな?」
走りながら真剣な眼差しで問うミスティ兄様。
数瞬の沈黙の末、私も真摯に応じます。
今の自分に足りないのは覚悟。
戦うという事は……命を奪うという事です。
そして負ければ命を奪われるという事です。
メイド喫茶で働く希望を持って異世界転生した私ですが、
生きる事は戦いの連続であるという事を学びました。
ならば私は逃げません。
泥水の様に汚れようとも。
この身が罪に塗れようとも。
命を失う怖さを知りながら、
私は奪い奪われる覚悟を決めます。
「やれます!」
「いい返事だ。
……いくぞ!」
私の返答にミスティ兄様は満足そうに頷くと、
勢いづいた速度を落とさぬままゴブリン達目掛け突撃します。
一角馬が驚いた様に私達を見るのが窺えます。
こうして私達は一角馬を救うべくゴブリンと交戦するのでした。




