それはまるで庇護者みたいです
念法<アストラルエンジェリング>。
それは超常の奇跡を現界に顕現する禁忌の御業です。
裂帛の意志と鮮烈なる思念によりによって研ぎ澄まされた闘気。
純白なるその力を武術と組み合わせ、聖なる武具で増幅・強化。
そうやって振るわれる業はまさに奇跡と称されるに値する力を秘めるのです。
無論、単純に闘気を増幅・強化したのでは<気と魔力の収斂>と同様の効果に留まるでしょう。
念法の冴えたるところは力の霊的な昇華にあります。
強大とはいえ通常なら物理的な現象に留まる力。
それを頭頂部にある<王冠・眉間>チャクラにより霊的フィルターし、超常の力へと変換する。
そうやって変換された力である<念>は、万能にして概念を通り越したモノとなるのです。
位階を越えた存在を滅ぼし、救われぬ存在をも救う。
事象を書き換え……望む様に世界を扱うのが神々の力なら、
概念を断ち切り……望む様に世界を具象するのが念法。
絶対なる根源には至らなくとも御使いクラスへと直結するといえばよいでしょうか。
故に位階向上による存在の昇華は通常レベルの力を遥かに越えたものとなるのです。
まあ難しく語るのもなんですね。
何か知らないけど、念法ってすっごい!!
って思ってもらえば構わないでしょう(うん)。
ただ今の兄様は敢えて発動のレベルを下げている様です。
霊的な昇華を行わず、物理的な発現のみを行う。
けどそれは強大な力を得る代わりに自らの身を傷付ける可能性があります。
まさに危険な諸刃の剣。
しかしそうでもなければ<十二聖>と呼ばれるソウジクラスに立ち向かうのは難しいのでしょう。
身体強化に特化した念法の発動により、今の兄様の動きはまさに韋駄天。
残像がブレるほどの速さを得て、ソウジへ向け鋭い斬撃を瞬く間に叩き込んでます。
「これは驚いたでござる……
まさかそんな古びた御業を使いこなすとは!」
されど応対するソウジもさるもの。
流星の様に弧を描くその斬撃を手にした刀で次々と弾いていきます。
斜め袈裟がけを刀の腹で。
眉間狙いを返した刀の柄で。
水月を穿つ突きを刀の先端で!
(ば、化け物ですか!?)
戦慄する私。
それは直接相対してる兄様が一番実感してるでしょう。
目に視えて動きが衰えていきます。
無論、その理由は焦燥もありますが消耗もあります。
念法の発動はそのレベル如何を問わず凄まじく命を削るからです。
このままでは兄様は消耗死を迎えてしまうかもしれません。
「もう終わりでござるか?」
「はあっ……はあっ……」
「ならば……次はこちらからいくでござるよ」
ソウジの問い掛けに、荒い息を懸命に堪える兄様。
たった十数秒の攻防。
それだけで鍛えてる兄様がこれほどの消耗をむかえる。
威力は絶大ですが、やはり燃費効率がいい業ではありません。
素気無い反応をする兄様目掛け、喜色を浮かべ刀を担ぐソウジ。
サムライ職独自の構え。
一太刀に全てを賭ける恐ろしい程の覚悟と業の冴えが窺えます。
だから私は――
「そこまでにしてください!」
兄様のプライドを傷つける事を承知で割って入ります。
全身から立ち昇る紅い闘気を纏って。
私の切り札である<焔と闘気の融合>。
これは今の私では発動に時間が掛かり過ぎ、実戦では使い物にならないレベルです。
ですが幸いな事にその貴重な時間を兄様が稼いでくれました。
渦巻く古代竜の秘めた力が心身を荒ぶるように活性化していきます。
今の私ならソウジの動きにも間違いなく追随出来る筈です。
「ほう……
兄は念法、妹はカグツチの加護を受けてるでござるか……」
立ち塞がる私を面白そうに見たソウジはくるりと反転。
返す手で納刀するとスタスタとルシウスの方へ歩いていきます。
何故か苦笑を浮かべ迎えるルシウス。
「えっ……?」
「で? どうだ、二人は?」
「……本国でもあれほどの業主は滅多にいない。
なかなか興味深い者達でござるな、ルシウス殿」
「余が選んだのだ。
間違いある訳がない」
「ははは。確かに」
「それで……結果は?」
「合格、でござるよ」
振り返ったソウジが微笑みながら告げます。
最初は意味の分からなかった私ですが、言葉の内容がゆっくりと浸透していくに従い少しずつ体が弛緩します。
ペタン、と兄様に寄り掛かる様にして身を支えます。
「ほら、ユナ。
しっかりしないと。
皆見てるよ?」
「だって……
安心したら何だか腰が……」
私を労わる兄様の言葉に申し訳なく思いつつも、私は童心に返ったように兄様の腕の中で庇護される安堵感を堪能するのでした。
ただいまです。
大変お待たせしました。更新です。




