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衝動となる、ときあかさる内容っぽいです

「うう……

 酷い目に遭いました」


 熱烈な抱擁ハグにより、くたびれた雑巾の様にボロボロにされた身体。

 揉みくちゃな可愛がりにより微妙に力の入らない震える手足を総動員。

 顕現させた退魔虹箒を杖代わりに(こんな勿体無い事に使うのは忍びないですけど)何とか引き摺る様にして実家の玄関まで辿り着きます。


「災難だったね~おねーちゃん」


 私を見上げるタマモの視線。

 そこには同情と憐れみの成分がたっぷり込められてます。


「アレは避けようがあるまい……

 しかもあの形状し難き威圧度。

 守護者として俺が赴き退治した<アルゴリアの人食い猪>に匹敵するだろう。

 よくぞ耐え抜いたものだ」


 腕を組み頷きながら称賛するのは空気の読めない男と書いてネムレスと読む人。

 んな事は~どうでもいいんですよ!

 私は鼻息荒く荒んだ眼差しで抗議します。


「まあまあ。

 ユナも落ち着いて……ね?

 ジャレッドおばさんも悪気があった訳じゃないだろうし」


 いつになく優しく私を労わるシャス兄様。

 そう。兄様の指摘通り、馬車の停留所から村に入り幾ばかりも行かない内に、ジャレッドおばさまに遭遇したのです。


「ユナちゃああああああああああああああん!!」


 とまあ、それはもう凄い勢いで駆け寄ってくるおばさま。

 お世話になった事や家宝の貸し出しに関する礼を述べようと頭を下げる私。

 その身体が軽々と掬い上げられるや、情熱的に抱き締められました。


「まったくいつ帰ってきたんだい!

 あたしゃもう~心配で心配で心配で」

「お、おばさまギブギブギブギブギブギブ!!」


 ギシギシ嫌な音を立てる肋骨に真剣に死の予兆を感じます。

 慌てて謝罪するおばさまにたった今村に着いた事を告げ、様々な感謝をし、後で御挨拶をする事を約束し拘束を逃れてきたのです。

 おばさまはまだ抱き足りない様でしたが、取り直してくれた兄様の言葉「長旅で疲労してるので」を信じ素直に開放してくれました。

 正直、後数秒遅ければアウトだった気が……。

 今回の一連の騒ぎで一番死を間近に感じた瞬間でもあります、ええ。

 まあお土産こそ渡したものの、まだまだ抱き締め足りない御様子。

 後で待ち受ける運命を呪い、私は溜息をつきながら我が家の鍵を開けます。


「ただいま~」

「ふむ、遅かったなユナ」

「ホントに~もう待ちくたびれちゃったよ~」

「あはは。すみませんです」


 玄関で靴を脱いだらきちんと揃えて、と。

 旅の埃はきちんと落としておかないと。

 軽くブラッシングをし、スリッパに履き替えた私は玄関脇の居間に入ります。


「ユナ様、長旅お疲れ様で御座います。

 本日はチャイコルの良い茶葉が入りまして……」

「あっ、じゃあそれを頂けますか」

「畏まりました」

「あっ、ユナちゃん。

 このクッキーも良かったらどうぞ。

 あたしの手作りなんだ~」

「うあ~それは嬉しいですね~♪」

「んふふ~味の方は保障できないけどねー」

「まあ立ち話もなんだ。

 まずは座ったらどうだ」

「そうですねーお言葉に甘えて、と」


 居間のソファーに腰掛ける私。

 すかさず差し出される香茶のカップ。


「どうぞ、ユナ様」

「ありがとうございます。

 じゃあ頂きま~す」


 ゴクゴク。

 芳醇に薫る甘さの中に微かに漂うスパイシーなアクセント。

 醸し出される旨味と酸味のハーモニー。

 溜息の出る様なこの絶妙なブレンド。

 流石は一流の執事の仕事ですね。


「はあ……美味しい。

 何だか生き返った気がします」

「それは重畳」

「ユナちゃんってば大袈裟ねー」

「まったくだ」

「そうですか?

 えへ☆」


 HAHAHA。

 まるでぬるい米国ドラマのように穏やかに談笑し合う私達。

 ……って!

 

「何でここ(フェイム)にルシウスがいるんですか!

 しかも優雅にティータイムを満喫してるし!

 それにルナさんにセバスチャンまで!

 御二人は獄中じゃなかったんです!?」


 雰囲気に流されていた私でしたが、ついに堪え切れずツッコミます。

 私の後方で苦笑を堪えてるのはネムレスと兄様、そしてタマモ。


「三人とも笑ってないで何とか言って下さい!」

「いや、ユナが泰然と応じてるからつい……」

「ツッコミを入れてはならない。

 そういう忍耐力を鍛える試練か何かかと思ったのだが……」

「あはは、本当にダメ♪

 おねーちゃんの天然っぷりにはマジやられるぅ~」


 堪え切れずついに俯き腹筋を鍛える三人。

 もういいですよ……

 そうして小馬鹿にしてればいいんですよぉ~(僻み)。


「んで、ルシウス達はどうしてここに!?」

「ほ、報告だ報告!

 ユナの様子も気になったしな」


 鬱屈した私の気迫に押されたのかタジタジと応じるルシウス。

 その横ではルナさんとセバスチャンがこっそり仕掛けた悪戯が成功した腕白小僧の様に微笑んでいます。


「報告?」

「そう、宮廷内部の事とかな」

「それって……」

「ああ。今回起きたテロ後の功績もあり父上が正式に王位を継ぐ事となった。

 もう何人たりともそれを妨げる事は出来ん」

「そう……ですか」

「まあ仇敵らが勝手に自滅していった感がするがな」

「それはそうなる様、仕向けていたからですよ……」

「ん? 何か言ったか?」

「いえ、何も」

「そうか。ユナの精神は上手にプロテクトされてるから最近は余でも読み取れん。

 まっ、ダダ洩れる思考からロクでもない嗜好とは窺えるがな」

「ほ、ほっといて下さい!」

「戴冠式まであとは暗殺を警戒せねばならないが……

 父上なら問題ないだろう」

「そうですね……確かにユリウス様なら」


 未来を覗き見る。

 厳密に云えば全知をもって前知と為す。

 自らが望む道標へと選択可能なユリウス様。

 でも言い換えれば定められた役を降りれないとも言えます。

 今回の様に自らの破滅を願ってもそうそう退場は叶わないでしょう。


「で……それはそうと、何でこの二人が釈放されてるのです?」

「次期王位を継ぐ父上が弁護したのだ。

 彼等は潔白である、と。

 父上の能力は宮廷に広く知れ渡っている。

 その父上がこう言ったのだ。

 二人の行動は私の指示によるもの、よって拘留は不当だと。

 そうなれば表立って反論出来る者はいまい。

 まあそうは言っても疑惑が消えた訳ではない。

 だからこそ余の直属の傍仕えへと配置した。

 もし不埒な事を考えるならばすぐに対処できるからな」


 思考を読み古の覇王の宝物に守られたルシウスならば確かに安全でしょう。

 ぱっと窺うだけで<身代わりの宝玉><不可視の防壁輪>など現在なら伝説級の宝物を装備してますし。

 その総額は下手な街の年間予算を遥かに上回ります。

 まるで歩く身代金ですね。


「ルナさん、セバスチャン。

 貴女達は……本当にそれでいいんですか?」

「まあ、ね」

「我が主たるユリウス様の命ならば」

「上手いこと気持ちを利用されたとは思わないのです?」

「今更。だからユナちゃんには理解出来ない、って言ったのに」

「左様。我等の想いは我等にしか理解出来ませぬ。

 ユリウス様が行け、とおっしゃれば行く。

 ユリウス様が死ね、とおっしゃれば死ぬ。

 我々はユナ様達の与り知らぬ域での恩義と忠節があります」

「それが破滅へ向かう路だと知ってても?」

「無論」

「喜んで」


 ああ、駄目ですね。

 この二人には理を尽くしても届かない。

 哀しいけどそれだけの結び付きがある事が少し羨ましく感じます。


「けど――アネットさんの事は別です、セバスチャン。

 何の罪もない彼女を刺したのは許せません」

「その事ですが、ユナ様」

「何です?」

「うむ。

 ユナ、彼女はいったい何者だったのだろうな?」

「どういう……ことです?」

「我々がここへ報告しに来た内容は3つある。

 一つは父上の事。

 これは説明したな」

「ええ」

「二つ目がアネットという武官侍女の事」

「彼女が……何か?」

「不可侵たる中立地帯であるプロン寺院で療養に当たっていたのは知ってるな?」

「はい、私の手の者が手配しましたから」

「昨日の事だが……

 療養中だったアネットが寺院内にいた司祭や尼僧ら十数名を昏倒させ逃走した。

 王立諜報機関シャープネスですらその足取りは掴めぬ」

「なっ!?」

「ユナ……今にしてだが余は思うのだ。

 あれだけ念入りに警備し、所在を知らせぬ様にしていた筈の父上。

 だがその情報はいったいどこから洩れていたのだろう、と」

「まさか……」

「そしてこれは先程判明したのだが……

 王立諜報機関の調査によると、アネット・コルネットなる人物は実在しない。

 戸籍も巧妙な偽装により僭称されたものであった。

 王宮に取り入る為、出身などを偽る者は多い。

 よってその審査は厳しく行われるのだが……

 如何なる手段かアネットは擦り抜けた。

 そして父上の傍に仕える事となった。

 彼女の何から何までも……全てが嘘だったというのに」

「そんな……」

「これは弁解になりますが、ユナ様。

 あの日わたくしはユリウス様から命じられておりました。

 マリー様の姿をした者が襲撃を掛けてくる……

 その際にアネットを刺せ、と。

 その時でしか彼女を除外する隙がないのだと」

「苦し紛れの言い訳じゃない事はあたしも証言するねー。

 確かにユリウス様はそうおっしゃったよ~。

 そしてあたしには宝珠の力で皆を転移させるように言った。

 これが皆の身を守るには最善のルートだとも」

「じゃあ彼女は――

 いったい何者だったと言うのです……?」

「さあ……余も分からぬ。

 世界蛇の手の者にしては手が込み過ぎているし回りくどい。

 いったい何が目的で何をしていたのやら……

 そして3つめ」

「……何です?

 これ以上何があるって――」

「そなたの父である<闘刃>カルティアとレカキス家長女ファルリアだが……

 東方の国<イズモ>の霊峰で消息を絶ったと連絡があった。

 生死は不明だ」

「えっ……嘘……」


 次から次へと告げられる衝撃的な内容。

 私は脳裏が真っ白になっていくのを……

 冷めきった思考が残された頭の片隅で、どこか冷静に感じているのでした。

 

  




 これにて王都編終了になります。

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