弾劾となる、すべりこみし追及っぽいです
「殺す、とは……物騒な話だね」
書き物をする手を止め、顎を両手で組んだ上に乗せるユリウス様。
先程見せた動揺の漣など無いかのように今は穏やかに微笑んでます。
けど私にはそれが上手に取り繕った仮面の様に見えました。
頑丈で強固な壁。
切り崩す為にも深呼吸を一つし、私は更なる追及の刃を潜り込ませます。
「いったい何を証拠にそんな――」
「最初に感じたのは違和感です」
「違和感?」
「ええ。ユリウス様の持つ未来視能力。
その精度はほぼ100%の的中率を誇っていると伺いました。
なのに今回は不足な事態が多過ぎました」
「ふむ。どういうことかな?」
「無数にある未来への分岐点から望む支流を選ぶ事が可能なのが未来視能力。
ですがこれにはたった一つ、知られざる事実が隠されてます」
「ほう」
「それは未来を観察し選択する観測者……
この場合はユリウス様の生存は何を置いても変えられないという事。
未来を確定する為には現在・過去・未来を把握する観測者がいなくてはならないからです」
「随分詳しいのだね」
「とある筋からの情報です」
「それで……それが何故私の生死に関わってくるのかな?」
興味深い数式を見つけた数学者の様に稚気に溢れた声。
面白がる視線を私は真っ向から見返しながら応じます。
「まず不可解なのは襲撃された別荘の事。
同じ未来視能力を持つという6魔将とはいえ、安全を『確認』した筈の場所を襲われるのはどうも違和感を覚えます。
これが宮廷や執務室ならそんな事はないでしょう。
ですがプライベートな慰労に使われる別荘を的確に襲撃されるのはどうにも拭いきれない疑惑を抱きます。
よって推測されるべき懸念は二つ。
一つ、内通者がいた」
「ふむ」
「これは今現在容疑を掛けられているセバスやルナなどになります。
けど私はこの疑惑は否定したいと思います」
「それはどうしてかな?」
「二人のユリウス様に対する忠誠心は本物だからです。
中には歪んだ想いから誤った方法で仕える者もいるでしょう。
けど二人の想いは紛れもない本物。
ユリウス様へ害意を及ぼすなどとんでもない。
ただし――」
「ただし?」
「例外があります」
「例外? それはどんな――」
「そして二つめ。
これはその問いに対する答えでもあります」
「ほう」
「ユリウス様……貴方は死にたかったのではないのですか?
そしてそれを忠臣にも告げたのではないですか?
確定されてしまった――
未来の呪縛から逃れる為に」
私の質問に、優秀な生徒の発表を見守る教師の様に目元を綻ばせユリウス様は応じます。
「正解だ、アズマイラ。
いや、ユナティア・ノルン」
「どうして!
――とは言いません。
手の内を晒し過ぎましたからね。
それに私の推測が確かなら隠し事は無意味な筈ですし」
「推測?」
「ユリウス様の能力が皆が思ってる以上に強力だったという場合。
そう、全知に近いレベルまで及んでいたならば」
「はは。それは流石に大袈裟だ。
だがまあ……外れではない。
時にユナ、箱の話を知ってるかな?」
「災厄を閉じ込めた箱の話ですか?
愚者により解き放たれた数多の災厄。
けどたった一つだけ解き放たれずに残された災いがあった為、人は絶望せず生きていける。
その災厄の名は――」
「前知。即ち『これからどんな事が起こるか分かってしまう不幸』の事。
ユナ、私はね。
生まれた時から全てを知っていた。
正確にいえばこれから起こるべき事を『知って』しまっていた。
これがどれほどの苦悩か分かるかな?」
どこまでも穏やかなのに――
哀しい程に歪んだ半月を口元に浮かべるユリウス様。
ずっと隠してきたであろうその闇は、
私が想像する以上の深淵を湛えている様でした。
一応、伏線の回収です。




