未遂となる、ゆゆしきなる反逆っぽいです
「な、何をしている!
相手はたった一人だぞ!
さっさと始末して――」
しまえ、そう続けようとしたカエサルは気付いた。
指揮下にある兵達、その全てが皆、顔色を失っている事に。
まるで意志に反し動けない事に。
そうだ。何故気付かなかった。
彼等は軍部でも指折りの列強。
自分に忠誠を誓う(無論、見返りを求めてだろうが)者達。
この様な事態であれば、自分が指示するまでもなく迅速に対処する筈。
それが動かない。
呆然と動向を窺っている?
そんな馬鹿な理由がある筈ない。
ならばそれは動かないのではなく――
「気付いた様だな」
天空から掛けられる声。
この広いホールで自在に動ける数少ない一人であるカエサルは上を見上げる。
先程の乱入してきた覆面男がいた梁とは別の場所。
天窓に続く僅かな足場にその少年はいた。
まるで天使の様な愛くるしい美貌。
だがよ~く目を凝らせばその本質が分かる。
傲岸不遜さを湛えた、強い意志の光を秘めた瞳。
愉しげに歪んだ笑みを浮かべる唇。
腕組みをしながら下界を睥睨する仕草は悪の大魔王よろし、だ。
「貴様は!?」
「悪いがアンタの手下どもは全て束縛させてもらった。
闇魔術師ほどじゃないが、俺もアストラルサイドに干渉は出来るんでね」
報告書にあった<闘刃>の息子、聖霊使い!
となれば、これは<影縛り>の術式か。
だが200人以上いた兵を瞬時に縛る、だと?
規格外にも程がある!
通常は5人も対象に出来れば充分一流と言われるのに。
しかし疑問が解消されたのも確か。
何故夜会だというのに魔導照明の光度が低めだったのか。
全ては陰影をはっきりさせる事により、浮き出た影を媒介とし縛る為に違いない。
されどまだ勝機は残されている。
駒遊戯盤と同じ。
王さえ詰めれば勝ちなのだ。
そう判断したカエサルは棒立ちになっている近くの兵から槍を取り上げ、ユリウスに向け突き付けようとし――
「動かないで下さい」
稲妻のように飛来した一本の矢によって服ごとその場に縫い止められる。
聖霊使いの後方にいる、鷹の様に鋭く見据える弓を構えた少年によって。
「次は当てます」
双璧の弓士の片割れ!
夜会に出席していないのは知っていた。
が、まさか狙撃手の真似事をしているとは。
ここに到り、カエサルは完全に自分が嵌められた事を悟った。
ユリウスを襲撃するに最も最適だと思われたこの夜会。
だが夜会自体がこの反逆行為を炙り出す為の罠だったのだろう。
今にして思えば不審な点は幾つかあったのは確か。
しかし自分はまんまとその罠に引っ掛かってしまったのだ。
跪き、項垂れるカエサル。
そんなカエサルを沈痛な眼差しで見やるユリウス。
カエサルは拳を振り下ろし、床に叩き付け顔を起こす。
「どうやら自分は失敗したようです。
それともこれも貴方の思惑通りでしょうか?
さぞかし滑稽な見物でしょうな……父上」
「信じたくはなかったよ、カエサル」
昏く卑屈に唇を歪ませるカエサルに対し、
正室ではないとはいえ、血を分けた我が子の叛乱に父であるユリウスは嘆息し応じるのだった。




