絶句となる、はなやかなる世界っぽいです
「御来場です!」
仰々しい物言いと共に、自分達がいる控えの間から王宮大広間に続く扉が開きます。
緊張の為、閉ざしていた眼を私はそっと開きます。
目に刺さるあざやかな光。
微かな眩しさを厭わしく感じながら前を見据えます。
が、次の瞬間絶句しました。
開け放たれた扉から覗く世界。
あまりに浮世離れしたその光景に顔が強張るのを自覚しちゃいます。
だって信じられます?
総合体育館よりも広い敷地を飾る色取り取りの内装。
お金を湯水のごとく注ぎ込んだ成果。
根が貧乏性な私は材質をざっと勘定するだけで卒倒しそうです。
でも決して嫌味になっている訳ではありません。
積み上げられた歴史の重み、というものでしょうか。
まるで世界遺産の様な深みを与えてます。
さらに天井から輝きをもたらすシャンデリア。
高価な大型魔導照明をふんだんに使用しており、会場全体を雰囲気良く照らしています。
そんな会場の合間に置かれたテーブルに華を添えるのは贅を凝らした料理と花々の数々。
文献や噂にしか聞いた事がない豪勢な品々。
漂う芳香は心を弾ませ、彩色豊かな料理は見るだけで食欲を駆り立てます。
現に夜会服を着たとはいえ、料理の乗った皿を手にフリーズしてる冒険者風の方々がいますし。
きっと美味しさと雰囲気に思考停止状態なのでしょう。
気持ちは分かります、ええ。
固まってる彼等を余所に、会場内を優雅に歩むのは夜会服の紳士淑女。
グラスを片手に談笑する貴族に連なる者達です。
一見すると和やかな雰囲気、
ですが行き交う人々は笑ってはいるけど心を許している訳ではありません。
表情と言葉の端々に様々な思惑が見え隠れしてます。
流石は欲望渦巻く宮廷陰謀劇。
ちらっと見ただけでこれです。
一筋縄ではいかないのは承知してましたが……
幼少からこんな環境に身を置いていたルシウスを思うと溜息を禁じ得ません。
そんなルシウスですが、入口から離れた場所にユリウス様といらっしゃるのが窺えました。
口では何だかんだ言いながらもまだまだ親に甘えたい年頃のなのでしょう。
歳相応の無邪気な笑みを時折浮かべてます。
そのユリウス様ですが、遠目に確認するにゲストである冒険者達の緊張を解いて回ってる御様子です。
少し前の私ならその気遣いに感心してでしょう。
しかし……残念ながら先日から燈った疑惑の灯は今や消えない大きさにまで燃え上がっています。
まあ緊張して有事に動けないと何かと困る、というのが一番の要因かもしれませんが。
私は考え過ぎによる笑い話になる事を祈りつつ、それでも確認する為に歩み寄ります。
途端、左右に割れる人々の群れ。
(やだ……私、ドン引きされてる?)
某年収収入の広告の様な一文が頭に浮かびます。
今日の私の服装とメイクはゴシックロリータをイメージし仕立てたものです。
前世の知識を参照に、黒を基調としたレース・フリル・リボンがふんだんに飾られた華美なドレス。
革新的なデザインと自分では自負してましたが……どうも場違いなのようで。
私の姿を見た人達が驚きと何やら囁きを洩らしてますし。
ふ、ふん……いいですよ。
どうせ私は華やかな舞台には似合いませんし。
庶民は庶民らしく振る舞うのが一番ですよね!
ふくれた私は自分でも冷たいな~と思うほど意固地にユリウス様の傍へ足を進めるのでした。
主観性の違いによる差。
時々鈍感系主人公っぽくなるユナでした。
ちなみに今のユナ姿は妖精帝國の皇女ゆい様をイメージしてます。




