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検証となる、とまどいなる情報っぽいです

 そして……功労慰労会当日。

 闇が空を覆う黄昏時、クランベール商会の前に豪奢な馬車が止まります。

 王宮御用達の送迎馬車です。

 要人や貴族等を乗せて運ぶ馬車に私達の様な者が乗り込むのは極めて稀です。

 恭しく一礼する御者に招待状を示し、私とセルムスは馬車に乗り込みます。

 今回の立役者である銀狐とスカイでしたが、派手な表舞台は苦手との事。

 まあ過去に不祥事(銀狐は仕えていた貴族との確執。スカイは経費の使い込みというか使い過ぎ)がありますし、仕方ありません。

 丁重にお招きを辞退すると共に、セルムスが名代として同行してくれる事になりました。

 

「参りましょう、盟主様」

「ありがとう、セルムス」


 ドレスの裾をたくし上げ、台座に足を掛ける私にセルムスが手を差し伸べてくれます。

 今日の彼は燕尾服にも似た夜会服を粋に着こなしてます。

 以前の姿ならともかく、現在の彼はダンディズム漂う長身イケメン。

 淡いアヴァンチュールを期待する貴族の子女や奥様方ならば放っておかないでしょう。

 肥え太っていた姿を知っている私ですらドキドキさせられる容姿ですし、商人として学んだであろう礼儀作法とトーク術は教養の高さを覗わせ、決して相手を退屈させることはありません。

 きっとダンスのお誘いなどが絶えないに違いない筈です。


「失礼、奥様。

 お耳に糸屑が……」

「ああ、いけませんわ。

 あたくしには夫が……」

「フフ……良いではありませんか。

 一夜限りの夢、泡沫のごとき刹那の一時でございます」

「駄目ですわ。

 ああ、駄目……」


 手を取り合い、絡み合う二人はそっと会場から消えていく……

 昼ドラです。

 メロメロです。

 捲るめくよこしな妄想。

 そんな私の思いを知らず、馬車は王宮へ向け出発します。

 華美であるも嫌味ではない落ち着いた内装。

 衝撃を吸収する上質なスプリング。

 柔軟なクッションの感触を十分堪能しながら、馬車の窓から外を窺います。

 宵闇が下り、昏い王都に灯る明かり。

 自動発動する永続光コンティニュアルライトの魔術が付与された街灯やランプなどの生活光。

 かつて夜景の美しさを大陸に誇った王都。

 ですが今現在、その輝きの数は激減していました。

 王宮魔術師団や職工さん達の懸命な復旧作業により、インフラと外観はほぼ以前と遜色のない状態に戻っています。

 ただそこに住まう人々は別。

 先行きの無い未来に立ち上がる気力もなく憔悴した人々。

 未だユリウス様らが用意した避難所での生活を余儀なくされてる方もいます。

 平穏が常日頃に在り、平和慣れというより平和ボケしていた王都民にとって、先日の悪夢は刺激が強過ぎました。

 身近な人が理不尽に死ぬという恐怖を知らなかったのです。

 いえ、知ってはいたが理解してはいなかったのでしょう。

 脳裏に焼き付いた陰惨な光景は時折フラッシュバックし苦しめます。

 魔導技術の発達により決して生活水準が低い訳ではないこの世界。

 ですが闘争が間近にある為、メンタルケアなどの技術は凄くおざなりです。

 傷付いた人を癒す術はあれど、心を病んだ者を癒す術は極端に少ない。

 これは早めに対応しなくてはなりませんね。

 幸いアラクネ構成員の中には医療従事者や有識者がいますし。

 豊富な資金さえあればベースを築くのは難しくはないでしょう。

 ただその為には「ある事」を追及しなくてはなりません。

 浮浪者でもないのに、虚ろに路上へ座り込み空を見上げる無気力な王都民。

 その姿を歯痒い思いで窓から見送りながら、私は集めた情報の数々を脳内で整理しつつ未だ決断できずに迷うのでした。

 




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