解放となる、ちょうぜつの御業っぽいです
身を焦がす、なんてレベルじゃありません。
このままでは燃え尽きてしまいそうなほどの焔。
私は急上昇しようとする膨大な熱量をスキルと闘気を総動員して制御します。
まさかこれほどの力とは……
溢れそうな力の奔流。
それはまるで嵐の様に荒れ狂う暴力の渦。
自分の試算を超える脅威に戦慄すら覚えます。
しかし何より一番恐ろしいのは、この力(原子の火)の根底にある紅蓮の遺志です。
壊セ
燃ヤセ
蹂躙セヨ
生前の竜王が持ち得た衝動なのでしょうか?
貪欲に荒ぶる破壊衝動が私の心を呑み込んでいこうとします。
黒き負の情動。
絶対的な支配。
必死に抑え込もうとしますが――
(もう……駄目……)
それは人の手に余るあまりに圧倒的なイデア。
抗う行為すら嘲笑う狂想。
私と云う存在が書き換えられ、染め上げられようとした時――
(負けるな、ユナ)
誰かの声が……聞こえました。
「えっ……?」
(負けないで)
(負けんなよ)
(負けんなや)
(その程度なのですか?)
(そんな弱音を吐いてるな)
(弱気は似合わないよ)
(頑張れ)
(頑張って!)
(まだまだ!)
(大丈夫だよ!)
潰されそうな私の魂に響く様々な心声。
それは私がこの世界で培ってきた皆との絆。
皆の中にある私。
と、
私の中にある皆。
あたたかい……どこまでも優しく私を支えてくれる想いが、闇に堕ち掛けた私を踏みとどまらせます。
「(ユナ……)」
気付けばそこは純白な空間がどこまでも広がる心層世界。
私の前に現れ、優しく諭す様に呼び掛けてくるのは半透明な美しい少女。
ノルン家特有の黒髪ではなく、蒼玉石のような煌めきを放つ蒼髪に紫の瞳。
長く伸びた髪が幻想的に宙に舞い、
彼女が現実世界の住人では無い事を如実に語っています。
それは運命を共にする私の魂の伴侶とでもいうべき存在。
「ティア……」
「(久しぶり)」
「あの、私……」
「(ん。事情は分かる)」
「なら……」
「(けど駄目。
すぐ弱気になる。
前にも指摘したけど、それは貴女の悪い癖)」
「けど……」
「(それにユナはティアと約束した筈)」
「やく……そく?」
「(そう、共に母様を取り戻す。
もう忘れた?)」
「忘れる筈……ない」
「(うん。ティアも忘れてない。
運命の時は、もうすぐそこまで近付いてきている。
ならば……こんなところで挫けてる場合じゃない)」
「うん……」
「(ユナが築いてきた絆。
見返りを求めない純粋な想い。
それが礎となり貴女を引き留める。
絶対大丈夫。
更にティアもずっと貴女を支える。
だから――立ち上がって?
他の誰でもない。
貴女は貴女自身の幸せの為に)」
「そう……だよね……」
時間にすれば1秒にも満たない深層心理世界でのやり取り。
眼を見開き、現実に還る私。
兄様の術式から逃れたカチュアが私を強襲しようと狙いを定めてるのが遠くに視えます。
(でも――遅いです!)
覚悟は決まりました。
私は抑え込むのでは積極的に竜王の遺志を受け入れ、紅蓮に身を委ねます。
コワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセ
モヤセモヤセモヤセモヤセモヤセモヤセモヤセモヤセモヤセモヤセモヤセ
全テヲ蹂躙セヨ!!
誰の心にもあるマイナスを促す狂騒の囁き。
けど今の私にはそれが哀しい叫びに聴こえます。
理解されず、受け入れない。
自制できない衝動に支配された慟哭。
(あなたの怒りと苦しみは理解出来ません)
竜骸の核となる始原元素炉。
未だそこに宿る竜王の遺志へとリーディングし共鳴。
絶対の断絶。
暴風。
(けど、それもあなたなんですよね?
だから……受け入れます。
綺麗事だけじゃない。
剥き出しのあなたのままでいいです。
すべてを――私に委ねて下さい)
困惑と動揺。
拒絶と当惑。
歓喜と恭順。
雪崩れ込む熱き情動。
暴れ狂う破壊衝動。
心の内でごった返すそれら。
でも否定するのでもなく肯定するのでもなく。
私はありのままを受け入れ、自らの望むカタチへと導きます。
支配するのでも服従させるのでもない。
共に生きる。
その覚悟、意志。
故に発動する真の第二段階解放。
「<焔と闘気の融合>」
静かに。
されど燃え盛る紅蓮の焔。
膨大なその力が暴れ回るのではなく、しっかり私の制御下に宿る事を確認。
全身に漲っていく追随を許さない超絶の御業。
私は遂に<紅帝の竜骸>の力を開放する事に成功したのでした。




