笑撃となる、あっとうなる奥義っぽいです
過度の緊張により頬を伝う汗。
激しく鼓動を打ち鳴らす心臓。
シャス兄様の援護により振り出しに戻ったとはいえ、状況は好転してません。
ひたすら的確に私の急所を狙うカチュアを猛攻をいなすのに精一杯。
なかなか攻勢に出れない。
短期決戦を心掛けたのは何も慢心からではありません。
こんな曲芸じみた回避、いつ破綻してもおかしくないからです。
私としては奥の手を使ってでも決着をつけにいきたいところですが……
(そうはさせてくれませんね)
思考に沈みかけた隙を逃さずチャージをかけてくるカチュア。
愛らしい顔をしてその攻撃はえげつないです。
奥の手を発動するのにはおよそ10秒を必要とします。
普段暮らしてる時には何気無く過ぎるたったの10秒。
ですが緊迫した攻防のやり取りを繰り広げる戦場に置いてはその時間が何よりも希少です。
まして魔将クラスを相手取るなら尚更。
(でもこのままじゃジリ貧です……!)
焦れた私が無謀にも策に出ようかとした際、
「時間稼ぎが必要か、ユナ?」
まるで私の内心を読み取ったかのようにミスティ兄様から風霊による会話が届きます。
タイミングの良さに嬉しい反面、疑問。
ま、まさか心を読み取られてませんよね?(汗)
「ば~か(嘆息)。
お前は単純なんだよ」
「ふ、ふえ?」
「すぐ顔に出るっつーの。
どーせ今は、
『兄様に心を覗かれてる!?』
……とか考えてるんだろ。このお馬鹿)
「あ、あうぅ」
図星です。
いかなる魔術を使ってるのか、兄様は私の顔が分かるようです。
喉元を狙った鋏の刃を寸前で躱しながら、私は返答に困ります。
カチュアも疲れて来てるのか、3~5秒に一回の頻度で攻撃をしてくるので少しはゆとりがあります。
「昔から思ってる事が表情に出て分かりやすいだけだ。
まあそんな事はともかく、だ。
何かとっておきがあるのか?」
「はい。でも発動までに少し時間が……!」
「よし。ならばその隙、俺がつくる」
「大丈夫なんですか、兄様。
兄様こそ余裕がないのでは……」
遠くに見える高速飛翔する兄様と追随するバレディヤとの攻防。
攻撃耐性を持つバレディヤだけに兄様も苦戦してるようです。
しかし多彩な契約属性を持つのが精霊魔術の真骨頂。
まして聖霊使いたる兄様だから捌き切れるというのもあります。
ちらっと垣間見えるだけでも、
炎嵐<ファイヤーストーム>
風渦<ヴォーテックス>
雷華<ライトニングブラスト>
など上級魔術のオンパレード。
並みの術師だったら卒倒しそうな勢いで披露されてます。
無論、対価として疲労も蓄積されてる筈です。
いつも余裕のある兄様の顔からは笑みが消え、眉を顰めているのが微かに視てとれます。
「はっ。余計な心配はするな、ユナ。
お前は自分の事だけ考えてればいいんだよ」
「……はい」
「というわけでアレをやる。
覚えてるか? 2年前の」
「に、兄様!?
ま、マジですか!?」
「マジだ。
王都を襲うこの状況を引っ繰り返す為にも、ドカンと一発やっておく。
お前もある程度属性防御出来るんだろ?
近くにいると巻き添えを喰らうからしっかり備えろよ?」
「ちょっ、まっ。
私はまだ了承して――」
「もう遅い。
すでに管轄聖霊をルーンの支配領域下においた!
詠唱に入るぞ!」
「兄様ってば!」
「……四季を巡りし至高なる四方の御方。
今ここに精霊の寵愛を受けし聖霊使いたる……」
全然話を聞いてくれないし(涙)。
私はカチュアの動きを警戒しつつ全力で抗醒闘衣の編成に入ります。
2年前の悪夢を繰り返さぬ為にも。
耐寒、耐縛、耐刃その他出来る限り。
ミスティ兄様ほどの術者が詠唱を有する魔術。
それは最早失われて久しい魔法に匹敵するからです。
何故なら兄様の唱えてるのは全展位積層型魔術の奥義。
場合によっては季節すら変えてしまうと伝承に謳われる――
「氷蔦纏いし茨雪の女帝<レリゴーエンプレス>!」
天候変異魔術!
兄様を起点として、荒れ狂い連鎖し自壊する氷雪の茨蔦。
それは瞬く間に魔将達や王都を襲う妖魔達を巻き込み、束縛していきます。
圧倒的なるその力の片鱗。
私は絶句を通り越し、笑い出したくなる衝動がこみ上げてくるのでした。
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