接戦となる、ふりおとさる火蓋っぽいです
魔将達の動向を窺いながら、傷を負ったミスティ兄様にそっと近寄ります。
一挙一動が緊張の連続です。
緊張に汗ばむ掌。
リズムを崩し荒くなる呼吸。
油断をすれば『喰われる』かもしれない。
僅かな隙が即、致命的となる。
その事を肌で実感してるからこそ迂闊な真似は出来ません。
脇腹を押さえながら回復魔術を施行してる兄様。
思ったより傷は深いみたいです。
治癒術式の専門である法術に比べ、各種の魔術系統にある回復呪文は効果が各段に落ちます。
これ系統の特化性を考慮すれば当然の事です。
精霊魔術による回復呪文も確かにありますが、それは自己治癒力の増加程度。
通常なら即座に傷を塞ぐことは難しいです。
でもまあそれは普通の方の場合。
兄様に限って言えば、その持ち前の力で強引に治癒してるのでしょう。
そんな凄まじい力を持つ兄様。
けど魔将を相手に気が抜けないのは確かです。
警戒を怠らず、術の試行中も隙なく注視しています。
幸いなことにそれは先方も同様の様でした。
聖霊使い……ミリオンテラーの称号を誇る兄様。
残念な事実ですが、私では抑止力にもなりません。
二人を相手取れば敗北は必然でしょう。
ですが私に手出しをすれば兄様は絶対その間を逃しません。
少しの隙を覗かせる訳には絶対にいかないのです。
そういった要因が絡み合った一種の膠着状態。
私は無事に兄様の傍に寄る事に成功します。
「大丈夫ですか、兄様……」
「はん。大した傷じゃねえ。
完全回復までは……ちと、時間が掛かるがな」
「すみません、私を庇ったせいですね」
「馬鹿言ってんなよ、ユナ。
こんなのホントに何でもねえし。
大体俺がカバーしてなきゃ、お前の首と胴体が永遠にお別れするとこだったんだぞ?」
「ほ、本当ですか?!」
「嘘言ってどうするよ。
まあ相手はそれだけの技量を持ってる。
知覚出来ない意識外からの攻撃。
対処し辛い速さの斬撃。
その事を再認識しろ」
「はい。
でも兄様、あまり無茶をされては……」
「あ? そうも言ってられねえよ。
ここでこいつらを止めねえと洒落にならねえしな。
お前も貴重な戦力だ。
しっかりサポートしてもらうからな」
「了解です!」
「それにまあ……」
「?」
「本音を言えば、可愛い妹が傷付く姿は見たくないんでね」
「兄様……」
思わずウルウルくる私。
ちょっとチョロイな~と思います。
けどそんな私の想いを余所に唇を歪ませ嗤う兄様。
あ、これは何か邪なことを考えてます。
「に、兄様?」
「ったく、ムカツクよな~。
ユナを弄んでいいのは俺とシャスだけの特権だってのに……
あいつら、マジに許さん」
回復し終えたのか、すくっと立ち上がり凄まじい精霊力を纏い始める兄様。
そ、そんな本音を漏らさなければ最高だったのに。
義侠心とか家族愛でなく私怨。
少しでも兄様に感激した私が馬鹿でしたよ!(涙)
「さて……ご相談事は終わりですかな?」
「ああ、待たせたな」
「それでは、そろそろこちらからも行かせてもらうデスよ?」
「ああ、来い」
軽い口調と共に、兄様の様子を窺い攻撃態勢に入るバレディヤとカチュア。
私も闘気を練り退魔虹箒と抗醒闘衣の発現構成を強化していきます。
「くるぞ、ユナ。
しっかり俺に付いて来いよ!」
「はい!」
動き出した魔将の動きに応じ背中合わせになる私と兄様。
こうすれば最低限背後の死角は潰せます。
もっとも人外な力を持つ魔将相手に果たしてこんなセオリーがどれほど役に立つかどうか。
気を引き締め構える私達に襲い来る二人の魔将。
こうしてついに魔戦の火蓋が切って落とされたのでした。




