劣勢となる、あらたなりし参戦っぽいです
宙を踏み締める。
それは経験した事のない感触です。
軟泥の様に足を取られる事もなく、私が望むその瞬間にだけ確かな足場を形成する。
精霊使いではない私には残念ながら視る事は出来ません。
ですが、ミスティ兄様の契約精霊である風乙女の力がしっかり発動してるのを実感します。
ならば私の役割は単純明快。
この膠着状態を文字通り切り崩すのみ、です。
私は身に纏った抗醒闘衣を再活性化。
更に私を中心とし展開されていく意識の防御壁<顕識圏>を強化。
その行為を敵対行動と見做したのか、兄様から私へと矛先を変える妖魔達。
動きが束縛されてる為、その攻撃は射撃系の攻撃になります。
矢継ぎ早に襲い来る炎・雷・吹雪等のブレスや石弓の様に発射された爪牙。
通常ならそれだけで針鼠になりそうです。
けど――
「今の私が、その程度で怯むと思ってるんですか!?」
最短にして最良の動きで回避。
躱し切れない分は退魔虹箒で属性相克後、分解します。
空中に奔る鮮やかな残光。
臆した妖魔らの隙を逃さず、私は武術用語である聴勁状態へと瞬時に移行。
全身全霊を以って集団へ斬り込みます。
眼で見てから行動してたのでは遅い。
顕識圏を最大活用し、相手の動きに対して無意識に体が反応しなくては。
背後からの攻撃も避けられる……
いえ、360度全てをカバー出来る様に。
初の空中戦は未知の領域。
どんな不足な事態に陥るか分かりません。
ならば今の私は敵を寄せ付けぬ絶対の真球と化し、攻防一体のスフィアとなって敵を穿ちます。
(これは……)
そうして5分もしない内に気付きました。
最速で振るう箒。
消えゆく、墜ち逝く妖魔達。
激しい抵抗も当たらなければどうってことはありません。
兄様の的確なサポートがあるとはいえ……
まるで予定調和の様に敵の動きが分かる。
一挙一動を先読み出来る。
即ち、闘技スキル<明鏡止水>の開眼。
父様が得意として私では到底及ばないと思っていた戦技者の壁。
ここに到り、私は闘う者として一段階飛躍を遂げた事を認識します。
(これなら……)
負けません!
あれだけいた空戦ユニットは最早10数体を数えるのみ。
兄様と私の連携の前には敵は無し、です。
私がどんどん撃墜する事により、余裕のできた兄様が追撃出来るからです。
得意になった私が最期のスパートを掛けようと踏み出したその時、
「危ないぞ、ユナ!」
自在に空を高速移動してた兄様が、私目掛け突然のチャージ。
予測外の事態にもんどりを打って倒れ込みます。
一体何があったのでしょう?
「に、兄様!?」
「離れてろ!」
近寄ろうとした私を抑止し、脇腹を右手で押さえながら叫ぶ兄様。
その手からは赤いものが零れていきます。
深手ではないものの、精霊力で守られた兄様を傷付けるなんて……
そもそもいったい何時の間に!?
「どうしてですか、兄様!?
敵は何処に!?」
「今のは高速を越えた超速の斬撃だ……
意識の知覚外からの、な」
「あはは☆
はい、せいか~いデス」
瞬く様な燐光。
駆け寄ろうとした私の前を過ぎり、光は人型となります。
青白い輝きに包まれたのは可愛らしい顔をした5歳くらいの裸の少女。
優しく、見る者が微笑み返したくなりそうな笑みを浮かべてます。
この子を相手に警戒する必要はないと思わせる程。
ただ二つある違和感が無ければの話ですが。
それは華奢な両手で抱えられてるのが不似合いな、身長ほどもある大鋏。
さらに背中から生えた禍々しい紋様の羽根。
「お前は……」
「貴女は……」
私達の誰何に、少女は小首を傾げ応じます。
「うん。一応自己紹介するデスね。
ミーは魔神皇さまにお仕えする6魔将の一人……
葬送の滅儀師<夢眩>のカチュアいいマス。
短い付き合いですけど宜しくお願いしますデス」
新たな6魔将の参戦!
一見すると無害そうなこの少女の恐るべきは、視認どころか感知出来ぬほどの速さの斬撃の技量を持つ事。
私と兄様でも避けるだけで精一杯でしょう。
現状これだけでも正直打つ手がないのに、
「はん。お前もあいつの仲間って奴か。
さっきから覗き見しやがって……
いい加減、出ろよ。
出てこねえーなら引きずり出すぞ」
「えっ……?」
「ははは。バレましたか」
兄様の言葉に応じるのは闇夜に浮かぶ空間。
その空間が罅割れ、姿を現すのは片眼鏡に燕尾服を纏いし老紳士。
つまり――
「では前任者に倣い吾輩も名乗りを上げるとしますか。
吾輩の名はバレディヤ・パルン・ユズフォート男爵。
誇り高き理想の具現者、偉大なる魔神皇様に仕えし呪教授。
今宵は御多忙でしょうが……吾輩は存分に語り合いたい気分でしてな。
聖霊の寵愛児たるミスティ殿とは特に」
「生憎だが枯れた爺さんと嬉々として話す趣味はねえんだ」
「ははは。これは手厳しい」
冗談を交えながらも獲物を狙う猛禽の様な目線は笑ってません。
バレディヤを前に、流石の兄様も余力を割く余裕が無さそうです。
まさに前門の虎、後門の狼。
この忙しい火急の事態に、ついに私達は6魔将と遭遇を迎えたのでした。




