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識見<インサイト>6

 最初にそれを見つけたのは王都の絶対防衛ラインを形成する監視塔にいた兵士だった。

 最初は何かの間違いかと思った。

 響く咆哮と共に進撃し、険しい山々から駆け下りてくる原始人の様に素朴な装備の者達。

 マレにだがに蛮族が攻め込んで来る事は確かにある。

 だからこそ監視塔にいる者達はそれなりの腕を持った兵士達で形成されている。

 それ故今回もその様な侵攻の一端かと思われたのだが……


(おいおい……冗談だろ?)


 監視塔の見張り番は自分の正気を疑った。

 攻め込んでくる蛮族。

 それは分かる。

 分かるけど理解したくないのは一つの事実。

 大きさが、違う。

 何度目をこすり見直しても。

 望遠の効果を持つ魔導具を使用してみても。

 体積比が……サイズが違う。

 こないだ巡視で回った時に見上げた大木。

 奴等はその大木を上回る大きさを持っている。

 頭や体が大木の上からはみ出ている。

 認めたくはないが、これはつまり――


(巨人族の襲撃かよ!

 奴等、戦争でもおっぱじめる気か!?)


 到底信じ難い事実。

 王国と巨人族は互いに不可侵・不干渉で経過してきた。

 平地は王国、高山は巨人。

 明確な線引きや不戦協定などはないものの……実に100年もの間沈黙が保たれてきたのだ。

 だがそれは今や砂上の楼閣。

 砕け散った幻想と信仰に過ぎない。


(早く皆に知らせねーと……)


 警戒と外敵を周知する警報魔導具に手を掛けた瞬間、

 轟音と共に揺れ動く監視塔。

 まるで巨大地震の様に動く足場に何が起きたのか理解不能となる。


(な、何が……?)


 柵に掴まり見渡せば、牛ほどもある大きさの岩を持ち不思議そうに首を傾げる一体の巨人。

 やがて得心がいったのか、頷き岩を持ち上げる。

 投擲体勢に入ったその行く末は勿論――


(おい……おいおいおいおいおいおいおいおいいいいいいいいいいい!?

 マジか!? や、やめ……!!)


 視界いっぱいに広がる圧倒的な質量の接近。

 それが彼の見た最後の光景となった。

 巨人族による王都侵攻はこうして始まったのだった。






















 苦戦に次ぐ苦戦。

 いや、それは戦いとすらいえないかもしれない。

 巨大な巨人に対し、武芸に秀でる者達とはいえ人の身で抗える訳がない。

 防衛ラインに集った兵士達だが、絶対的なサイズには敵わない。

 蟻が巨象に挑むようなものだ。

 防衛用大型弩弓や魔術等による抵抗も所詮は足止めにしかならない。

 だがここを突破されれば無辜の民草が犠牲になる。

 王都内でも何かあったのか混乱し連絡が取れない。

 だからこそ現場指揮官である騎士達は覚悟を決める。

 絶望に塗り潰されそうになりながら決死の一撃を考案したその時――


「ぬううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 戦場に、奇跡を見た。

 人族としては大柄。

 だが巨人達から見れば小人の様なその男。

 しかしその男が眼にも視えぬ程の速さで拳を振りかざす度、血煙が上がり巨人達は倒れていく。

 アレはまさか……

 伝説である高名なS級冒険者にて王位継承者。

 戦いの場において<天撃>の畏敬もって称される男。

 即ち――


「ガンズルディア・レイズ・ランスロード!!」

「YES! アイアム!」


 騎士や兵士達の歓声に高々と拳を上げ応じるガンズ。

 反撃の嚆矢がついに放たれ様としていた。



















 指揮官に戦場に轟く大声で防衛陣形を指示しながら、ガンズは拳を振るう。

 その度に巨人の巨躯が吹き飛んでいく。

 鬼神という言葉を顕すならば、今のガンズの姿こそ形容されるのだろう。

 ガンズが持つ王家に伝わる力<思念具象エスパー>能力は天撃。

 それは念動力を以て分子間結合力に干渉。

 結果、全てを粉砕するという能力である。

 導師級魔術師の扱う高位呪文<分解消去ディスインテグレート>に似た効果を常時発動しているともいえる。

 ありとあらゆる防御を無効にするその力はまさに最強の矛。

 更にその力を、巨体からは信じられない程繊細に研ぎ澄まされた戦闘技巧で振るうのだ。

 天災に近いその嵐の様な猛攻は数少ないS級の中でもトップクラス。

 強大な力を持つ巨人達も流石に距離を取る。

 その間にガンズも息を整える。

 能力の多用による疲弊がズッシリと圧し掛かってくる。

 が、今は踏ん張らねばならない。

 道中無事合流し、そして王都に到着ざま懇願されたルシウスに報いる為にも。

 そして何より王都に住まう者達を守る為にも。

 

(しかし我が甥ながら……

 空恐ろしいほどルシウスの読みは的確じゃのう)


 ガンズにここへ来る様、そして防衛を頼んだのはルシウスである。

 くだんの魔神皇による襲撃宣言。

 王都内に溢れ返る妖魔達。

 冒険者として、そして王家に連なる者として戦わねばならない。

 だがルシウスは魔導帆船で辿り着いた波止場で言った。

 ここ(沿岸部)と王都外を守らねばならない、と。

 ルシウスはその持ち前の精神干渉能力といにしえの皇の財宝の力を以って王都内の防衛体勢を察知。

 戦力差は圧倒的だが皆を信じ耐えねばならないと。


「ここで懸念すべきは外部からの強襲です。

 目前の敵だけで手一杯なこの状況。

 背面や側面など、予期しえぬ襲来があれば盤面が崩壊。

 間違いなく詰みます、叔父上」


 その推測は的確だった。

 他の誰でもなく、体格差・防御差を無効とする自分で無ければこの事態には抗えなかっただろう。

 安堵と共にポーションを飲むガンズ。

 その手が戦慄に震える。


「旧き巨人共じゃと!?

 そんな奴等まで来たというのか!?」


 ガンズの視界に入るのは30メートルを越そうかという超大型巨人達。

 旧時代には神と崇められたもの達である。

 竜や魔族と並ぶ強大な人族の天敵。

 炎巨人ファイヤージャイアント霜巨人フロストジャイアント雲巨人クラウドジャイアント

 冒険者時代でも滅多に見る事がなかった者達が3体もいる。


「これは儂一人で太刀打ち出来るか……

 否、やるしかない」


 述懐するガンズ。

 その時、遠くに聳える炎巨人が大きく息を吸うのを確認する。


「しまった! ブレスか!?」


 ガンズの力の効果範囲は自らの身体を起点とした周囲1メートルのみ。

 あの巨人の吐くブレスを自分は無効化出来るだろう。

 だが火砕流のごときブレスにより背後にいる兵士達は皆黒焦げとなってしまう。


「ならば儂に出来得る限り消し去ってくれるわ!」


 悲壮な現状でも闘志は消えない。

 熱く拳を握り締め覚悟を決めたその時――


(相変わらず脳筋じゃな……)


 呆れた様な思念波が脳裏に響くと共に、顔面を鋭い何かで切られた様な炎巨人が顔を押さえ絶叫する。

 その思念、その業。

 類い稀なる神秘を振るう持ち主とは間違いなく――


「タマモ、お主も無事じゃったか!?」

(そんな大きな声を出さずとも伝わっておる。

 まったく……変わらず暑苦しい奴じゃ)


 姿こそ見えないものの、それは遥か北方の地へと飛ばされた筈のタマモに間違いなかった。

 そしてその思念を切っ掛けとして、突如現れ巨人に襲い掛かる妖魔達。

 最初こそ同士討ちかと思われたが、統制が取れ明確な意志の下、巨人へと襲い掛かっている。

 奇襲を受けたのが完全に想定外だったのか、浮足立つ巨人達。


「これはお主の仕業か、タマモ?」

(そうじゃ。やっと北方地域の妖魔らを掌握、平定してきたとこじゃ。

 手勢を率いて来てみればこの状況……

 いったい何があったのじゃ?)

「実は……」


 全容を把握してる訳ではないが、ガンズが知り得る経緯を説明する。


(はん! なるほどな……体制の廃滅と下らん選別か。

 いつの時代も改革を促そうと狂信者はいるのじゃな)

「巻き込まれる方はたまったものではないぞ」

(同感じゃ。

 ところでユナ達は無事かえ?)

「うむ。ルシウスが探ったところ、王都内で防衛拠点を形成してるらしい」

(成程な。あの娘の考えそうな事じゃ)

「お主はどうする?」

(妾が主が『守る』と決めたのじゃ。

 ……あたしはそれに従うだけだよ~☆)

「……お主も相当なタマじゃな」

(それは言いっこなし☆

 じゃああのデカブツはあたしが引き受けるから……

 雑魚共の露払いはよろしくね、ガンズ♪)

「了承した!」


 その念話を機に戦場へ舞い戻るガンズ。

 彼の伝説に追加される、新たな序章の開幕だった。






 更新です。

 ガンズとタマモの王都合流。

 これでやっと状況説明が終了です。

 次回からはユナ視点に戻ります。

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