表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/403

泣いちゃうらしいです


 弓を手にしたまま、残心を怠らず構えを解かぬシャス兄様。

 見習いとはいえ弓手の恰好をしており、要所には防具も着けてます。

 ミスティ兄様も契約精霊を集め周囲を警戒してます。

 聖霊の恩寵を受けやすいという銀の指示棒を握ってるのが見えました。

 何故二人がここに?

 疑問を抱くより早く、私は窮地から逃れられた安堵感で跪きそうになりながら二人に駆け寄ります。


「兄様!」


 そう言って抱きつこうとした私は、

 パン!

 と、シャス兄様の平手で遮られました。

 何でしょう。

 その平手は、決して強くはないけど……何故かとても痛く感じました。

 そして何より一番の驚きはシャス兄様に手を上げられた事です。

 転生後の人生。

 僅か3年ちょっとの間ですが……

 ミスティ兄様はともかく、この穏やかな兄様が私に手を上げたのはこれが初めてです。

 私は呆然と叩かれた頬を押さえ、シャス兄様を見上げます。

 そこには叩かれた私より痛そうな顔をしたシャス兄様が眉をしかめてます。

 以前村でいじめっ子相手に見た怒りの情動に近いです。

 

「え……?」

「ユナ……叩いた事はまず謝ります。

 けど、貴女に必要な事だからしました」

「シャス兄様……」

「貴女はいったい何をしてるんですか!?

 ボク達は言いましたよね。

 この期間は危険だから森の方へは行くな、と。

 それが何でこんなとこにいるんです!?

 しかも他の子達も一緒に!

 本来なら貴女は皆を止めなくてはならない役目でしょう!?」

「すみません……」

「謝ってすむ問題じゃありません!

 ボクが怒ってるのは先程のユナの対応もです。

 自分が身代わりになればいいと思ってませんでしたか?

 今回は間に合ったからいいものの……

 ボクは……もう少しで……」


 荒々しく怒鳴りながら激昂するシャス兄様。

 私はただ謝罪の言葉を繰り返すしか出来ません。

 そこに溜息をつき、ミスティ兄様が割って入ります。


「その辺にしておけよ、シャス」

「しかし兄さん!」

「皆無事だったんだ。それが何よりだろ?」

「それはそうですが……」

「ま、何にせよ……

 よく頑張ったな、お前ら。

 もう安心していいぞ。

 後は絶対……俺達が守ってやる」


 ミスティ兄様のその言葉を聞いた瞬間、

 ワキヤ君、クーノちゃん、コタチちゃんは大声で泣き出します。

 怖かったのでしょう。

 絶望したのでしょう。

 年端もいかぬ子供にこんな経験は理不尽過ぎます。

 涙をポロポロ零す三人。

 その様子を見ていた私の視界も何故か滲んでいきます。

 あれ? 

 何でしょう?

 変です……

 何ですか、これ?


「ユナ」


 優しく掛けられた声に顔を上げます。

 そこには三人同様、涙を零し手を広げるシャス兄様の姿。


「……ユナが無事で、本当に良かった……」


 心から安堵したように私を抱き締め、呟くシャス兄様。

 その瞬間、押し寄せる圧倒的な衝動に突き動かされる私。

 堰を切った様に涙が溢れ頬を伝います。

 あ、やだ。

 こんな筈じゃないのに……

 とても……自制なんて出来ません。


「ごめ……ごめんなさい、兄様……

 し、心配掛けて……

 うっ……うああああああああああああ~~~~!!!」

「……いいんですよ、ユナ。

 キツイ事も言いましたが、貴女が無事ならそれで……」


 兄様に抱きつき、外聞もなく無様に泣き叫ぶ私。

 決して褒められた姿じゃないでしょうけど……

 私は恥ずかしいとは思いませんでした。

 正直に告白するならば、

 ……心が満たされ、全てが安らぎました。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ