幕間<インターミッション>5
「これで最後か!?
他に避難者はいないな?」
「はい!」
王都の各地に設けられた避難所。
それは冒険者組合の要請で集会所や商会や教会など、多人数を収容出来る場所を臨時避難所に設置したものだ。
先程の魔神皇からの宣戦布告後、激化する妖魔の襲撃に備え派遣されていた雇われ冒険者が警護に付いている。
しかし残酷な事にここまで逃げのびれる者はあまり多くはなかった。
大概は魔導照明の掲げられる避難所に向かう道中で妖魔達の狂爪毒牙の餌食となってしまった。
妖魔との遭遇が身近な辺境の者ならばともかく、平和慣れし危機意識が低下した王都住民では緊急時の対応が疎かだったのだ。
溢れかえる妖魔群から逃れるには堅牢な建物に籠るのが一番の対処だろう。
少しでも危険に対するアンテナが高い者は民家の戸を叩き難を逃れていた。
今も飛び込んできた避難者を匿い、妖魔を返り討ちにしたところだ。
「くそっ。キリがないぜ」
「ボヤくな。俺達が守らないで誰が守る?」
「ああ、分かってるけど……って、ん?」
彼等の視線の先、ボロを纏った人影がゆっくりと近づいてくる。
魔導照明の範囲外を歩むその姿はさながら幽鬼の様だ。
逃げてきた物乞いか何かか?
冒険者達は声を掛ける。
「おお~い! 早くこっちに来い!」
「待て! 様子がおかしい……
アイツまさか、先程から報告に上がってる例の」
「ふははははははあははっははははあははあははあはあははあははあははははあははあははははははははっははははあははあははあはあははあは!!」
当惑する冒険者達の前で哄笑をあげる人影。
嗤い声から察するに若い男性らしい。
だがその嗤いに込められた狂気に歴戦の冒険者達は狼狽する。
「愚かなる者達よ!」
人影はボロを脱ぎ捨てる。
現れたのは女性と見間違える程端正な容貌をした金髪の青年。
夜会用の貴族衣装を身に纏い、要所で均整の取れた身体を晒している。
「救われぬ魂にボクが最大の寛恕をくれてやろう!
すべからく……死ね」
宣言した青年は驚くべき行動に出た。
懐から短剣を取り出すと、自らの手首を切り裂いたのだ。
動脈を傷付けたのか、勢いよく吹き出る血。
その言動、その行動に息を呑む冒険者一同。
しかしその躊躇が彼等の命を奪った。
意志を持った様に動き出した青年の血が、突如視認出来ぬ速さで彼等の頸動脈を裂いたのだ。
「がっ?」
「げふっ??」
何が起きたか分からず出血し絶命する冒険者達。
「鮮血魔術<血奔>……
うん、今日もボクの腕前は素晴らしいねえ~」
嘲りを浮かべ、頭をコクコクと頷く青年。
「雇われBクラス冒険者を瞬殺。
まあ美し過ぎるボクには容易な事だけどね~」
青年の名はミシュエルブラード。
血を媒介とし神秘の秘儀と為す血戦師。
王都を襲う6つの災厄が一人、6魔将であった。
主の宣戦布告後、活動を開始した彼等は抵抗拠点を潰して回ってるのである。
108か所設けられた王都の抵抗拠点は既に20か所以上彼等によって強制的に沈黙させられていた。
「さて、命じられたボクの仕事は防衛者たる冒険者の排除だけど……」
ミシュエルの目線の先には建物の影から脅えた眼でこちらを見る人々がいた。
眼を閉ざし、何かを考えるミシュエル。
端正なその容貌が、いやらしく歪む。
「でも……少しくらいは遊んでもいいよね? うん」
路上に広がる冒険者達から溢れ出た多量の血。
真紅に染まった血だまりに未だ止まらない自らの血を零す。
次の瞬間、血液は鳴動し刃となっていく。
蛇の様に鎌首を持ち上げ、威嚇する無数の血液の刃。
刃の先には絶望に硬直する人々。
そこには老若男女。
老いも若きも男も女もいた。
その一切に関与することなく、ミシュエルブラードはただ快楽と享楽の為に虐殺をする。
何故ならそれが彼の存在意義。
腐ったこの世から『解放してあげてる』という御題目に酔っているから。
「じゃあ、そういう訳で……死んで」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ひっひっひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「あばばばばばばぶるうううううううううううううううううううううううう!!」
闇夜に響く苦悶と怨嗟の絶叫多重交響曲。
演奏家の様に耳を澄ませながらミシュエルは呟く。
「お待ちくださいませ、我が皇よ。
汚れに満ちた世界を変える時がついに来た。
貴方様に仕える有能なるこのボクが必ずや期待に報いてみせます」
誰にも理解されない教義を説いて。
殺戮の貴公子は想いを馳せるのだった。
>6魔将
殺戮の貴公子こと<狂慄>のミシュエルブラード
敵役たる6魔将の描写ですが、全員分を描くと時間(と章数)が掛かるのでこの辺で止めておくか検討中です。
興味あります? 早く本編(ユナ視点)に戻った方がいいかな~と。




