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不遜となる、せんりつなる宣告っぽいです

 王都各所に置かれた魔導体を媒介とし、遥か遠方を自在に写し出すのはアラクネ技術班が誇る物見の水晶球モニター

 現在そこに映し出されているのは王都上空に浮かび上がる巨大な人影。

 目元を覆うのは優雅な装飾の為された舞踏会用の仮面。 

 漆黒のマントを魔王よろしく棚引かせたその姿。

 いかにもステロタイプな悪役っぽいです。

 本人も自覚してるのか、口元には皮肉げな苦笑が浮かんでいます。

 とその時、私を含むアラクネスタッフは驚愕させられました。

 その姿を視界に捉えた瞬間『声』が聞こえてきたのです。

 クランベール商会地下にある対策室にいる私達に肉声は聞こえません。

 となればそれは姿を『視る』という行為に付随されたハイレベルの高密度術式。

 あるいはルシウスの様な精神干渉系能力者の固有能力。

 恐らく王都の住民全てを対象にしてるであろうその力に、私は戦慄を抱きます。

 身を震わす私を余所に、陶然と水晶球を魅入るスタッフ。

 まるで聞こえてくる演説がその魂を鷲掴みしてるかのように。


「王都に住まいし者達よ……」


 静謐に満ちながらも威厳を称えし声。

 まだ若い……青年の様な声色には聞く者を魅了する響きが込められてます。


「我が名は魔神皇。

 王家に反逆せし世界蛇<ミズガルズオルム>の党首である」


 ――こいつが!

 6魔将を束ね、辺境に根を張るテロリストの元締め!

 母様があんな事になったのも元はといえばこいつの所為なのです。

 心から溢れる昏い衝動。

 タールの様に濁った熱い情念が、胸の鼓動を早くしていきます。


「我等が目的は旧支配体制の廃滅。

 並びに富の再分配である。

 安寧を貪る諸君らは知るまい。

 辺境では今も餓えに苦しむ者達がいる。

 弱き者達が無情にも打ち捨てられる世界が日常としてある。

 先のテロルはその意識改革を促すものであったが……

 どうやら諸君や高慢なる支配者達には届かなかったようだ」


 言って大袈裟に空を仰ぐ魔神皇。

 そこに込められた悲しみは本物の様です。


「改革には常に痛みを伴う。

 弱者をないがしろにする傲慢さこそが罪と知れ。

 諸君らが理解出来ないと言うならば体感して貰う他あるまい。

 皆の苦悩、恐怖を。

 よって先程より死の遊戯を開催した。

 参加料は、諸君らの命。

 報酬もまた諸君らの命。

 我等が用意した手駒は妖魔5000体。

 王都全員の命を奪うには充分なほどである」


 ご、5000体!?

 戦力可算で2000体オーバーまではカバー出来るようにしてましたが……

 その倍以上の戦力比では……戦線を支える事は正直、不可能です。


「なお、正規軍の諸君らには警告だ。

 君達を束ねる主に連なる者達、

 ディミトリス

 ベネディクト

 そして次期王位継承者であるユリウスの身柄はこちらで押さえた。

 不穏な動きを見せれば、見せしめの為すぐに処刑する。

 自衛の為、城と詰所を守るのは許そう」


 慇懃無礼に一礼した魔神皇が背後を示すと、

 そこには豪奢な衣装を纏った中年と初老の男性が縛られて転がっています。

 奴の言葉が真実ならば、あれが王族の人達なのでしょう。

 しかし何よりも奴の言葉の信憑性を増してるのは……

 椅子に縛られたままだというのに、視えない眼で魔神皇を睨みつけている……

 紛れもないユリウス様の姿でした。

 でも巧い警告と言わざるを得ません。

 王都正規軍は大陸有数の戦力。

 この規模の妖魔群にも何とか対抗出来るでしょう。

 けどあの一言で完全に足止めされてしまいました。

 軍は上下関係が厳粛に定められてます。

 階級が上の者に刃向かうのは以ての外、

 自らの主君に相当する王族達に弓引く真似は絶対出来ません。

 それでも言う事を聞かない血気盛んな者達はいます。

 彼らが先走らない様、あえて自衛は許すというのがミソです。

 抜け道があれば人はそちらに掛かりっきりになってしまうものですから。


「さあ必死に足掻くがいい。

 愚昧極まりない愚者達よ。

 我等の目的は諸君らの苦悶と怨嗟。

 生き残りたくば……

 戦って自らの価値を示せ!」


 不敵に笑い、魔神皇がマントを翻したところで映像は途切れます。

 呆然と立ち尽くすスタッフ一同。

 それは私も同様です。

 合いの手を討つ暇もない断裂。

 それは敵ながら惚れ惚れする程あざやかなる宣戦布告でした。






 書き足し更新です。

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