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羞恥となる、とうとつなる来室っぽいです

 本日幾度目になるのか分からないくらいの浮遊感。

 酩酊にも似た軽い眩暈の後、瞳を開けてみれば、そこはクランベール商会の地下にあるアラクネの執務室でした。

 ほっ……何とか無事に転移出来た様ですね。

 ミスティ兄様の腕を疑う訳じゃありません。

 ですが転送先を指定する座標主(私です)があたふたしてたので正直不安だったのです。

 バレディヤの襲撃を受けた為にボロボロとなった服装に目を瞑り、部屋に備え付けの立鏡で自分を見直します。

 ん。銀狐に調整してもらったドレスの所々には裂傷が奔り、暴行後の様な無残な姿ですが……外傷や転移による融合部は無いようです。

 確認をしっかり行った私はやっと安堵の溜息を洩らします。

 あんな人外を相手に五体満足で切り抜けたのは僥倖以外の何物でもありません。

 改めて救い主であるミスティ兄様に感謝しちゃいます。

 しかし今まで銀狐による定期的な王都への往復転移以外は経験した事が無かったのに、昨日からこっち転移しまくりです。

 縁と云うか、重なる時は重なるのですね。

 連続転移は肉体的にはともかく、意外に精神的にキます。

 それに今日も色々ありましたし……本当に疲れました。

 出来るならこのままベットに飛び込みたいくらいです。

 でも銀狐達情報部が集めた情報がそろそろ整理される筈。

 皆の行方や奴等<ミズガルズオルム>の動向を告げる報告を聞くまでは安心出来ません。

 特に気になるのはユリウス様の消息とその身命の有無です。

 無事だといいのですが……側近であるセバスチャンとルナさんが裏切った以上、まず間違いなく奴等に掴まったとみて間違いありません。

 となれば秘密裏に奪還を行わなくてはならないのですが……奴等の武力構成はかなりのもの。

 争いとなればアラクネの全てを用いた総力戦になるでしょう。

 戦いになれば当然犠牲者も出ます。

 皆、その事を承知で仕えてくれてるのでしょうが……やはり気に病みます。

 何とか最低限の被害で事態を切り抜ける事は出来ないでしょうか。

 そんな事を考えながら私は襤褸切れとなったドレスを脱ぎ、革鎧を脱ぎます。

 思考(と妄想)に没頭すると周囲が見えなくなるのは昔から指摘される私の悪い癖です。 

 ですから聞こえませんでした。

 執務室の前まで来る、複数の足跡と話し声を。


「……ええい、盟主様の行方はまだ分からぬのか!?」

「鈴蘭通りでそれらしき人物が人助けをしてたとの情報が入った。

 おそらく間違いないだろう」

「夜も更けてきた。あの方にもしもの事があったら……」


 軽いノックの音と共に開き放たれる扉。

 姿を覗かせたのはセルムスと銀狐でした。

 私の身を案じ、今後の事を相談しに念の為に執務室を見に来たのでしょう。

 ただ……そのタイミングが神懸かり的に悪かったのです。

 驚愕に固まる二人。

 何故なら、その前にはやはり驚きに固まる私がいたからです。

 っていうか、革鎧もコルセットも脱ぎ完全に下着姿です。

 二の句が告げず頭が高速で空回りします。


(ゆ、悠奈でなくユナとしての私はまだ7歳ですから本来なら恥じる必要は無いかもしれませんが精神的にはもう18になろうかという年齢ですし異性に肌を見られた年頃の娘としてここはどういうリアクションが正しいのでしょうとか思考する前に今は年齢詐称薬のお蔭で17歳の姿なのですから……)


 完全に支離滅裂。

 思考回路はショート寸前。

 錯乱状態。

 結果、本能的に行う行動はシンプルでした。


「うっ……」

「う?」

「うきゃああああああああああああああああああああああああああ~~~~!!」


 甲高い悲鳴を上げた私は、周囲にある物を目標も定めず二人に投げます。

 よく漫画やアニメなどで見られるシーンですが、自分が当事者になり初めて分かりました。

 あんな事する人いないし、もっと理知的な行動とるよ(ふふん♪)。

 とか考えてた私が浅はかでした。

 とにかく全身を襲う羞恥を何とかする為、攻撃的な衝動が湧き上がります。

 けど異性には近付きたくありません。

 だから物を投げ追い払うのです。

 ああ、こう考えれば論理的ですね、うん。


「お、お止め下さいいいいいい~~~盟主様あああああああああああああ!!」

「自分達がいる以上無駄だ、セルムス。

 失礼しました、盟主様。

 研究室にいますので落ち着いたら姿をお見せ下さい。

 お伝えしたい事が沢山ございます」


 頭を抱え頭部を守り、許しを請うセルムス。

 物が当たりながらも意に介さず淡々と謝罪する銀狐。

 この場合、どっちが正しい対応なのでしょう?

 まあそんな対応の有無はともかく――


「いいから早く出て行きなさい!!」

「「は、はい!!」」


 軍隊の号令の様にかっちり頭を下げ、急速に踵を返し出て行く二人。

 私は荒い息を尽きながら、涙目でその後ろ姿を睨むのでした。

 うう……デリカシーがないのは一番いけないと思います……(くすん)




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