襲撃らしいです
鎮守の森は霊山である幻獣郷へと続く間にある大きな森です。
植生が豊かで人の手が入ってない古い姿です。
いうなれば原生林です。
私達フェイム探検隊はそんな中を談笑しながら進んで行きますが……
すごく歩き辛いです。
見習いとはいえハンタースキルを持つワキヤ君が獣道を見つけ鉈で藪を切り開いてくれてますが、
それでも時折残された植物に足を取られそうになります。
よくファンタジーもので森の中を行軍するシーンなどがありますが、
あれはやっぱりフィクションですね。
現実の私達は泥臭く地味な行軍に追われます。
「くそ~思ったより進まなねーな」
「もう! これじゃ日が暮れちゃうじゃない!」
「そろそろ休憩に……する?」
「では中央の泉まで行きますか?
あそこなら水分を取れるし、ゆっくり休めます」
「「「賛成~」」」
私の提案に皆が賛成し、中央部にある泉を目指す事になりました。
こうして私達は一時間程四苦八苦した末、何とか泉に辿り着きます。
疲れ果てたのか水を飲んで地面にへたり込む三人。
日々の鍛錬成果か、体力的に余裕のある私は甲斐甲斐しくハンカチを濡らし皆の汗などを拭います。
「ユナは……体力あんな~」
「流石は……ふう、カル先生の子供さんね」
「尊敬……はあはあ………しちゃう」
「普通ですよ。兄様達の方がもっと凄いですし」
「お! やっぱミスティ兄ちゃんってすげーの?」
「シャスティア様って普段どんな感じ?」
「気になり……ます」
矢継ぎ早に質問されます。
シャス兄様が女性に人気あるのは知ってましたが、
意外なとこでミスティ兄様は男の子に人気があるようでした。
何でもゴーダ達いじめっ子から何度も助けてもらったそうです。
私としては結果としてそうなっただけで、
ミスティ兄様は単に憂さ晴らしをしただけではないかと思いますが。
きっと兄様に訊いても同様に答えるでしょう。
……それにしてもシャスティア『様』って……
変なとこで変に人気のあるシャス兄様に頭を抱えたくなります。
そんな時、
「あっ……『来る』……」
突如トランス状態に入ったコタチちゃんが虚ろな瞳で告げます。
彼女は森妖精であるエルフの血筋を引いてるお蔭で霊格が高いそうです。
今みたいに本来知り得ない事を知ることがあります。
村では数少ないシャーマン見習いをしてるのもその力を見込まれて、です。
コタチちゃんの警告にワキヤ君とクーノちゃんが警戒します。
こんな場所での来訪者。
招かれざる存在であることは間違いありません。
鉈を構えるワキヤ君に対し、クーノちゃんはその隣に寄り添いその身体に手を当ててます。
クーノちゃんは幼くして神の声を聞いた神官見習いです。
まだまだ未熟な為、弱い回復と祝福の法術しか使えませんが、それでも大したものなのです。
彼女が大人達に信頼されてるのもその影響でしょう。
一方、コタチちゃんと共に二人の後ろに庇われた私もそっと闘気を纏います。
闘気により身体能力を引き上げる『纏』はノルファリア練法の基本です。
澱みの無い力の循環をイメージしながら全身を覆うのが重要となります。
迎え撃つ準備は整いました。
コタチちゃんが無言で指差す方を皆で緊張しながら見詰めます。
ガサガサ。
風も無いのに草が揺れ動く音。
ビク! と三人の身体が反応します。
そこに出て来たのは、
「な~んだ、イタチじゃない」
可愛らしいイタチでした。
思わず力が抜け安堵に膝が崩れそうになります。
「まったく……脅かすなよ、コタ」
「違う! 上!」
必死な形相のコタチちゃんが上を指差します。
慌てて上を向く私達。
空を覆い隠す森の枝葉。
枝を飛び交う黒い小さな影。
コタチちゃんの指摘に気付いたのか、こちらに向かってきます。
悲鳴を上げたたらを踏む三人。
事態の推移に追いつけない私。
気の緩んだ瞬間を突かれるという、最悪の状況で最悪の不意打ちを受けてしまいました。
どうしましょう。
これはちょっと……マズいかもしれませんね……
真っ白になった頭でそう思考しながら、私は唇を噛むのでした。




