戦慄となる、よそくしえぬ邂逅っぽいです
夜の帳が下り、先も定かでない薄暗い街路。
私は暗視スキルを発動しながら人気のない路地裏へと足を運びます。
先程から突き刺さるいやらしい視線も追随するように後を追ってきます。
やがて誰も巻き込むことが無いであろう建物に囲まれた空地へ辿り着くと、私は背後を振り返り、問い掛けます。
「いい加減出てきたらどうです?」
「……」
「女性相手に臆しましたか?
私に用があって追い回してたのでしょう?」
「……調子に乗ってんなよ、てめえ」
私の舌鋒に憤慨したように姿を現したのは先程トールに絡んでいた男です。
憎悪に歪んだ顔。
手には凶悪な棘が付いた棍棒を持ってます。
「さっきはよくもコケにしやがって……
犯した後、ぶっ殺してやるよ……」
「テンプレですね」
「ああ?」
「定番過ぎて退屈だ、と言ったんです」
溜息をついた私は、半歩だけ右足を引き腰を軽く落とします。
やや前傾で半身となったこの構えはノルファリア練法<山勢厳>といいます。
対人戦法の中でも特に武器を持った相手への構えです。
「んだ、コラ。
オレ様に適うと思ってるのか」
抵抗する意志を見せる私を嗤う男。
だから私は闘気で四肢を強化しながら男に言ってやります。
「彼我の実力差も分からない。
自分より弱いと見定めた存在にしか牙を剥かない。
だから三流と言ってるのですよ」
「っざけんな!」
「私が女だから組みし易いと思いましたか?
こんな路地裏まで付け回したのは何の為ですか?
残念。
貴方の様な輩の気配はダダ漏れでしたし、それに」
押さえ切れない衝動を視線に込め、私は宣言します。
「人を殺そうとする者は自覚しなくてはなりません。
即ち、自らも殺されるかもしれないという覚悟を。
貴方にその覚悟がありますか?
もしあるというのなら……掛かってらっしゃいな。
お相手して差し上げます」
「上等だ、コラ!
今すぐぶっ殺して」
私の挑発に棍棒を振り上げた男。
しかし次の瞬間、その体躯が静止します。
「なっ……」
何故ならその腹からは不気味に蠢く触手が突き出してたからです。
男も信じられないといった感じで背中から飛び出た触手を見ています。
「あっ……んだ、コレ……」
「人を殺して良いのは、自らも殺されるかもしれないという覚悟がある者だけ……
ふむ、良い言葉だ。吾輩もそう思う」
「がああああああああ!!」
感心したような声と共に蠕動する触手。
臓腑をいやらしく掻き回す、まさに地獄の責め苦。
動く度に男の身体から生気が失われていき、早回しの動画みたいに急激にミイラの様に乾いていきます。
やがて男は苦悶の絶叫と共に絶命しました。
完全に乾涸び、誰にも判別出来ない姿と成り果てて。
生気を吸い尽くしたのか、男の身体から抜き出る触手。
それは男が姿を見せた角へと消えていきます。
衝撃に砕け散る男の亡骸。
あまりにも。
そう、それはあまりも呆気ない最期でした。
まるで人の生を冒涜する様な。
事態の成り行きに立ち尽くす私。
確かに男は褒められた存在じゃなかったでしょう。
実際、私もそれなりの対応をして官憲に突き出す気でしたし。
でもだからといって。
だからといってこんな死体さえ残らないのは酷過ぎました。
それにあの触手。
おそらくエナジードレインの効果を持ってるのでしょう。
瞬く間に人を絶命せしめたその力。
正直、戦慄を抱かざるを得ません。
打ち震える私を余所に、街路に響くカツンカツンという音。
杖を突く様な音と共に姿を現したのは片眼鏡に燕尾服、ステッキを持った老紳士。
キチンと手入れをされ、口元に携えられた純白の髭。
人の良さそうな好々爺たる穏やかな笑み。
ですが彼を視界に捉えた瞬間、私の本能が全力で警鐘を鳴らします。
危険なんてレベルじゃありません。
アレは……アレは最早、生物として遭遇してはいけない存在です。
「愚者を裁きに来たら、これはまた珍しい方とお会い出来ましたな。
お初にお目に掛かる。
吾輩の名はバレディヤ・パルン・ユズフォート男爵。
巷では深淵の呪教授や<冥想>等と呼ばれておるみたいですな。
以後、お見知り置きを」
「なっ……!!」
魔神皇の配下、六魔将の一人!
警戒する私に対し、仰々しいまでに慇懃無礼な一礼をするバレディヤ。
上げられたその顔は愉快そうに歪められてます。
「まあもっとも……
あまり長い付き合いになるとは思えませんがな」
「えっ」
宣言と共に身体を襲う衝撃。
恐る恐る下を向けば、
舗装された地面から突き出た触手が、
物理防御が施されたケープを易々と打ち破り、
私の腹部目掛けドレスを貫いてるのが見えました。
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