死んじゃったらしいです
危ないと思うより早く、私の身体は動いていた。
横断歩道を渡る小さな女の子に迫るトラック。
運転席でスマホをいじる運転手の姿が見えた。
そちらに気を取られてるのか、前方にいる女の子に気付いている様子はない。
女の子自身も横断歩道を歩いてるし、信号が青という油断があった。
結果、双方にとって不幸な事故が起きる。
そう、このままでは。
そんな事を冷静に考える私が脳裏の片隅にいたのは確かだ。
でも現実の私は自分にしては珍しいほどのスタートダッシュで、女の子を押し遣っていた。
道路から弾き飛ばされる女の子。
代わりに道路に残された私。
やっと現状に気が付いたのか、運転手が絶叫と共に急ブレーキを掛ける姿が克明に見える。
でも、間に合わなかった。
ドン!!
という大きな音と激しい衝撃。
10メートル近く飛ばされた私の身体は糸の切れたマリオネットみたいに無抵抗に横たわる。
不思議と痛みはなかった。
だけど体中から流れ出す血。
力の入らない身体。
残念だけど、どうやら致命傷らしい。
徐々に薄くなる視界。
擦り傷以外は無事な女の子が泣きながら私に近付いてくるのが見える。
(良かった……無事だったんだね)
その事実に安堵しつつも、私の意識は遠のいていく。
ああ、やだな。
このまま死んじゃうのか。
もっと色々やりたかったし、もっと美味しいものを食べたかった。
友人と話したかったし、恋もしてみたかった。
でも……女の子を助けられたのは幸いだった。
あのまま見殺しにしていたらきっと一生後悔してただろう。
だから悔いはない。
ただ……
(お父さん、お母さん……ごめんね)
愛情いっぱいに育ててくれた両親に対しては申し訳ない気持ちで泣きたくなる。
こんなことなら、もっと親孝行しておけばよかった。
慙愧と後ろめたさ。
そんな心残りを抱きながら、私の物語は幕を閉じた。