溜息となる、せきららなる談笑っぽいです
「さて。
組織の現状把握と皆の顔も見れた事ですし、
そろそろ私は自分の仕事に取り掛かります」
各部署の定例報告(銀狐を通してではなく直接聞くのは久々です)に、
逐一助言をしながら軽く打ち合わせ。
新人紹介や業務の効率化、さらに来期の予算の検討することを約束し、終了を宣言します。
「聞いたか、皆の者?
盟主様はこれから執務に当たられる。
謁見は以上にて終了だ。
散会し各自業務に戻れ」
セルムスの指示に不満そうな顔をするも、素直に従う一同。
本拠地に設けられた自分の執務室に向かう私に一斉に頭を下げます。
ですが私が退室したと思い囁き合う声(スキルの影響もあり地獄耳なんです)。
ひそひそと聞こえてくる内容が私を羞恥に駆り立てます。
例を挙げると、
「おいおい、見たかよ盟主様」
「ああ、すっげー綺麗だったな!」
「流石は無慈悲な女王って感じだったわね(はあ)」
「うん、正直堪らない(ぞくぞく)♪」
「お前ら……マジ大丈夫か?」
「あやしいとは思ってたが、結構アレだな」
「たとえ同性でも魅了する盟主様のカリスマ……
そこに痺れる憧れる!」
「しっかし雰囲気も容貌も最高だなんて、
我等が盟主様はどんだけっ~て言いたいですな」
「俺さ、生の盟主様見るの初めてだったんだよ。
魔導念写のサイン入りブロマイドは大事にしてるけど」
「いいな、それ。
購買で買えるのか?」
「あのお御足に踏まれたい!」
「変態……」
等々。
何でしょうね、この居た堪れない恥ずかしさ。
こう……絶叫しながら駆け出したくなります(赤面)。
私は内なる衝動を懸命に堪え、自分の執務室に入ります。
後に付いてくるよう指示したセルムスを促し、備え付けのデスクにある執務椅子に腰掛けます。
疲労したような私を見兼ねたのか、ワゴンに用意されているティーセットへ向かい、手慣れた様子で香茶を注いでくれるセルムス。
私は感謝の言葉を告げながら、杯を傾けます。
あっ……香りもさることながら、ほんのり美味しい♪
うん、これはいい茶葉を使ってますね。
思わず安息の溜息をつく私。
普段皆に見せている威厳ある姿ではなく、素のままの自分。
そんな様子に苦笑しながらセルムスが話し掛けてきます。
「お疲れ様でした、盟主様」
「本当に疲れました。
皆、私の事を何だと思ってるのでしょう?」
「いや~このアラクネにおいて盟主様は偶像のごとき憧憬を抱かれてますからな。
あの程度のサービスはして頂かないと」
「我が組織の未来には暗雲が立ち込めてますね」
「はっはっは。
それだけ構成員の団結力がしっかりしてるのですよ」
「ならばいいのですけど(溜息)」
「ところで、盟主様」
「何です?」
「運命石による<記し>は拝見しましたが……
この度はどのような御用件で王都に?」
「私がアラクネに顔を出すのはいけませんか?」
「いえ、そんなことは。
ただいつもはフォックス(銀狐)を通じて指示出しをされてますからな。
直接こちらに来られるのは珍しいのでは、と」
「確かにそうですね」
「それに」
「うん?」
「あの手配書の件ですよ。
フォックスの奴が珍しく血相を変えてましたからな。
いったいどんな厄介事に盟主様が巻き込まれたのか、と。
それに過保護なあ奴が盟主様のお傍にいないのも気に掛かりますし」
「それは……」
銀狐、セルムスともう一人の幹部は、アラクネを束ねる無慈悲の女王ではなく、
素の私を知る数少ない理解者であり秘密共有者です。
彼等の協力なくしては組織の運営は成り立たないので、私も皆の視線がないところではいつもの自分を曝け出してます。
だから私は気兼ねなくいままでの経緯を説明します。
「なるほど、そのような事が……」
「ええ、正直厄介な事になりました」
「まあそのような事情でしたら我らが組織はまさに打ってつけ。
すぐにでも情報を掻き集め対処致します」
「頼みますよ、セルムス」
「はは。お任せあれ。
盟主様に命を救われた御恩はまだまだ返せませんからな」
髭を撫でながら豊かなお腹をポン、と叩き快活に笑うセルムス。
愛嬌のあるどこかコミカルなその態度に、私はやっと肩の荷を下ろしたように苦笑し返すのでした。
一周年も間近。
更に200話記念もありますし、次は外伝っぽいお話を掲載予定です。
読みたいリクエストとかあれば是非とも。




