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手配となる、いわれのない悪意っぽいです

 銀狐の活躍により、大鬼達はあえなく全滅しました。

 当面の危機が去った事を把握すると、私は急ぎ樹の洞まで戻ります。

 落ち葉のクッションに変わらず横たわったままのアネットさん。

 先程の気功療法により幾分か状態は回復したものの、意識は戻らず時折身体を震わせてます。

 いけませんね……これはおそらく、急激に体力を失った事による身体の対抗反射である発熱の前兆でしょう。

 前述した通り、気功療法は傷口の損傷を塞ぐ事には有用ですがその分体力を消耗します。

 アネットさんへの身体的負担を考えないならば複合スキルにより回復も望めますが、他者へ効果を及ぼすスキル編成というのは様々なデメリットを伴います。

 遠慮がいらない外敵相手ならそれでもいいのでしょうが、彼女相手に無理は通せません。

 残念ながら自分の所持スキルではここまでが限界です。 

 せめて少しでも苦しみを軽減しようと、おでこに手をかざし慰撫スキルを発動。

 安息効果により呼吸が少しだけ楽になっていきます。

 その時、私の後を追ってきたのでしょう。

 銀狐が背後から顔を覗かせます。


「盟主様……この方は?」

「私の連れです」

「盟主様のお連れの方ならば、自分達にとって賓客です。

 丁重におもてなししたいところですが……この御様子。

 いったいどうされたのです?」


「それは……」


 簡単にこれまでの経緯を説明します。


「なるほど。それで王都へ来られたのですね。

 では手荒になりますが自分が治療致しましょう」

「出来るのですか?

 時空魔術の制限として生体反応を持つ者の時空間加速・減速は不可能な筈でしょう?」


 以前似たような事があった際に尋ねてみました。

 対象者の時の流れを戻す事や速める事は可能か、と。

 これが出来れば傷の治療(厳密には傷を負う前に戻す巻き戻し)や恒常的な不老の達成、

 更には即死級の対象の老化などを行えるのですが……

 そんな便利なものではないと一蹴されてしまいました。

 時空魔術が干渉出来るのはあくまで空間や非生物の固有時間のみなのです。


「なに。蛇の道は蛇。

 正規の手段が駄目でも、いつも抜け穴は用意されてるものなのですよ」


 呟きながら銀狐が取り出したのは何処にでもあるポーションです。

 そんな気休めにもならないものをいったいどうするのでしょう?


「こうします」


 ポーションに力を注ぎ、中の治療薬の時間を加速していきます。

 1年、5年、10年。

 なるほど……そういう手法もありますか。

 一般的にポーションは時間が立てば立つほど劣化していきます。

 ところが最良の状態で発酵したものに限り、従来の十数倍の効能を持つハイポーションへと変化するのです。

 銀狐がやったのはその応用ですね。

 程よく時間を加速する事により熟成され高純度化したハイポーション 

 それを傷に浸し癒すだけでなく、口元から注ぎ体力の回復を図る銀狐。

 流れるような手付きもさる事ながら、その発想に驚嘆せざるをえません。

 やがて薬が効いたのか、驚くくらい顔色が良くなり呼吸も落ち着きます。

 もう大丈夫のようですね。

 ふう……心からの安堵に溜息が出ちゃいます。

 私のそんな心配を余所に、溜息を聞きとがめた銀狐が尋ねてきます。


「少々よろしいでしょうか、盟主様」

「いったいなんです?」

「少しお尋ねしたいことがあるのですが……

 今回はどのような厄介事に巻き込まれたのです?」

「? どういうことです?」

「実はこのようなものが王都に触れ回っておりまして」

「??」


 銀狐が取り出した数枚の紙。

 そこには何というか。

 実に凶悪な顔をした、私達に良く似た犯罪者が描かれてました。


「随分とよく描けてる手配書ですね。

 こっちの私によく似た少女なんて、

 一人で数年は遊べる額の懸賞金が付いてますし。

 何々……

『次ノユナティア・ノルンなるもの、王家に対する反逆罪にて指名手配トス。

 報酬:身柄と引き換え(生死は問ワズ)』

 へえ~これまた大層な罪状ですね~

 ……って!!」


 私は思わず手配書を勢いよく破り捨てます。


「どういうことですか、これは!」

「詳しくは自分も分かりません。

 ただ先刻から急に王都中に張り出されました。

 その流れがあまりに不自然なので情報の裏を探っていたのですが……

 どうも宮廷が関わってるらしく、セキュリティーにプロテクトが掛かってます」

「なるほど……となれば、勿論」

「ええ。王位継承者であるユリウス襲撃と合わせてのこの告知。

 見事に嵌められましたな、盟主様」

「悔しいですけど、その指摘は間違いありませんね」


 完全に情報が漏洩してるようです。

 この世界の個人情報は探る気になれば幾らでも明け透けですし。


「こうなれば一刻も早く王都に戻り対策を練らなくては」

「御意。

 ただ、その御姿ではすぐに足がついてしまうのでは?」

「それは、まあ……」

「では、これの出番ですかね」


 そう呟きながら銀狐が出したのはガラス瓶です。

 中には赤と青い飴に似た錠剤が入ってます。


「うう……飲まなければなりませんか?」

「強制は致しません。

 ですがその御姿では何かと支障が出るのではないですか?

 それに我がアラクネも従来の盟主様の御姿でなく、

 優雅なる女王としての御姿を望むものが多いので」


 呆れた様に肩を竦める銀狐。

 くう……背に腹は変えられないようですね。


「はあ……仕方ないですね」


 私は青い錠剤を2錠取り出すと、一気に呑み込みます。

 次の瞬間、身体を襲う圧倒的な高揚感。


「ふっ……あっ……くっ」


 熱い衝動が去った後には、

 17歳の姿へと変化した私がいました。


 メルモちゃん……いえ、今だと年齢詐称薬?w

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