颯爽となる、ぜつみょうな登場っぽいです
昏き森を突き抜けます。
熱く激しく。
冷たく静かに。
闘気術により強化された四肢が私の意志に応じてくれます。
零れる吐息。
流れる汗。
やがて……行く手を阻む枝葉を巧妙に避け駆け抜けた先、
探索スキルの恩寵により脳裏に浮かぶ光点まであと僅かに迫りました。
しかし視界を占めるのは鬱蒼と茂る原生林のみで人の姿はありません。
内心を覆う焦燥を強引に宥め、私は感覚を研ぎ澄ませます。
いました!
一見すると判別し辛い大木の洞の中、
葉っぱで偽装するようにして隠れている一人の女性。
私は慌てて駆け寄ると動かないその人を発見。
自らが流す血だまりに沈む、吐息も荒いその女性は……
「アネットさん!」
呼名に反応する様子はなく、ぐったりとした様子で横たわってます。
どうやら意識が無いようです。
転移後、何とかこの洞を見つけ襲われない様に偽装したところで力が尽きたのでしょう。
傷の深さもさることながら、何より出血の量が多過ぎます。
苦渋の末、あまり好ましいとは言えませんが気功療法を施す事にしました。
気功療法は回復魔術とは違い、対象者の体力を消耗してしまいます。
体力を置換し細胞を活性化させるからです。
熟達級の父様ならば対象者体内の気を刺激し導く事により、
ほぼ0に等しい消費でそれを行えます。
ですが未熟な私の技術では強引に傷口を覆うのがやっと。
一刻も早い本格的な対応が望まれるでしょう。
同時に応急処置などの医療系スキルも同時発動。
咄嗟の事とはいえ何とか急所を上手く避けているのが幸いでした。
これならば手遅れにならずにすみそうです。
しかし一番の問題は……
「こんな時に……!!」
そう、アネットさんが流す血の匂いに牽かれたのか。
外敵を示す赤い光点が多数近寄ってきます。
退魔虹箒を具現化すると、私は治療をキリのいいところで一時中断。
洞の外に出て迎え討ちます。
そして襲撃者を確認した私は、内心苦々しい思いで一杯になります。
最悪です。
群れを為して囲んでいたのは分厚い筋肉を纏った大鬼達でした。
手に棍棒を持ち、人族の肉を喰らう事に喜びを見い出しているのか、咆哮を上げ興奮してます。
今はこちらの出方を窺ってますが、戦えるのが私一人と分かればすぐに襲い掛かってくるでしょう。
そう、襲撃は時間の問題です。
猶予の無いその現実が私を苛せます。
対象の弱点を推移し対応する万色にして万能を誇る退魔虹箒。
ですが、実は弱点とはいえないまでも苦手なタイプがあります。
それがこういったパワータイプの輩共です。
クリティカルな属性付与が有効で無い為、結果的に身体強化による殴り合いになってしまうからです。
勿論一体ずつなら遅れを取る事はありません。
ですがこういった多数に囲まれた場合、さらに負傷者を守らなくてはならないという状況が容易ならざる状況を醸し出してます。
こういう場合は<符理解な編成統合>で切り抜けるのが一番なのですが……
アネットさんを巻き込めない為、一番有効そうな<生体毒の生成>という奥の手を切れないのが困難さを増してます。
「まあやるしかないんですけどね」
絶望に屈するにはまだ早い。
洞から出た私はアネットさんを庇いながら顕識圏を展開。
瞬間、自動発動される<対抗反撃>スキルや<即応反射><限界突破>スキル。
淡い闘衣に包まれながら、私は意識を研ぎ澄ましていきます。
あくまで怜悧に。
全てを無慈悲に。
何故なら今の私には守らなくてはならない人がいる。
そして守るべき存在がいる以上、私は絶対に退きません。
固い決意と共に箒を構えた時、
「流石は盟主様……
このような状況でも足掻く事をやめないのですな」
突如として後方より掛けられた感情味のない感想。
更に背後に現れ出る気配。
隠行とはまた違う別個の圧迫感。
闇世界の住人特有の、抗い難い澱みとでもいうべきもの。
けど私は動揺したりせず、自分でも驚くほど冷たい声色で誰何してました。
「随分と遅かったのではないですか?」
「申し訳ございません。
居場所の特定に時間が掛かりまして。
ですがお叱りを受けない程度には間に合った様ですが」
絶対の危機に颯爽と現れながらも韜晦する。
白の狐面に着流しを着た銀髪の男。
アラクネと私を繋ぐ端末にして幹部。
王都有数の情報屋であり<馳空>の異名を持つS級クラスの技能所持者。
組織運営だけでなく様々な面で私を支える片腕ともいえる存在。
銀狐でした。




