悔恨となる、くやまれりし述懐っぽいです
「ふむ。これは見事に出し抜かれたか……」
身体を覆う浮遊感。
視界を揺さぶられる様な酩酊感。
不快なそれらの感触を半ば強引に抑え込み、ネムレスは周囲を窺う。
虚飾に塗れた先程の別荘とは打って変わり、今現在自らがいるのは何処とも知れぬ山の中。
剥げ上がった大地に漂う硫黄臭。
かろうじて群生する植物などから推察するに、どうやら王都より遥か西の活火山ヴォルケイドス周辺にいるらしい。
流石は大陸なら何処へでも転移出来るという王家の秘宝<転移宝珠>の力か。
大した儀式もなくただ複雑な演算式のみで成し遂げるその効果にネムレスは感嘆する。
いや、正しくはその運用方法か。
味方を転移するという従来の方法ではなく、数人限定とはいえ遥か彼方まで外敵を吹き飛ばすという方法。
確かに脅威が身近でなければいい。
盲点と云うか、発想の転換であった。
(わたしも大分頭が固くなってるな……
ここ数ヶ月、シャスティアに指導する度につくづく思い知らされる……)
砂漠に染み込む水の様に、貪欲に知識と技術を吸収する教え子。
理路整然としたその優秀さ。
しかしネムレスはその利発さを好ましく思いつつも、
その理解度を支える真の理由を思うと暗澹たる気分になる。
何故なら彼(彼女)は学んでいるのではない。
思い出しているのだ。
闇の玉座に鎮座する、かつての自らの在り方を。
(果たしてわたしの指導が吉とでるか、
あるいは凶と出るか……
こればかりはどうなるか予測がつかないな)
次々と浮かぶ懸念事項の数々。
だがまずは現状の対策が先決であった。
「警戒はしていたが……
こうも立て続けにベクトルを躱されては、な」
慙愧と悔恨に刃を握る手に力が籠る。
懐かしい顔との再会の後、
突如として現れた襲撃者。
それは以前刃を交えた六魔将との邂逅であった。
更にユリウス陣営の裏切り。
世界の根源意志たる<琺輪>の代弁者として数々の難題に立ち向かってきたネムレスであるが、
今回のケースは強大な力を持った敵をただ下せばいいという、分かりやすく安易な解決方法を行うべきではないことが推測できた。
「咄嗟にエンゲージを巡らせたが、
果たしてどういうペアリングになったか」
既存魔術体系にない、ネムレス独自の干渉技術。
真言と呼ばれるそれは宇宙の法則を描いたモノ。
よって術式の優先順位は常に先に解決される。
宙に描かれた転移術式に割り込みを掛ける事により、転移先の変更は無理だったものの指定の転移者を共にペアリングすることは間に合ったのだ。
「王都へ戻る為には転移術者の助力が必要。
すると、ここからなら魔導学院が近いか。
まずはペアリング者との合流、
そしてサーフォレムとの交渉。
今世の自治統制局長は物分りがいいと助かるのだが……
やれやれ、わたしの行き先は前途多難だな」
苦笑しつつも自らのやる事が決まれば動きは早い。
ネムレスは探索魔術と自己強化魔術を併用しながら山の裾野を駆け始める。
守護者たる自らの使命を果たす為に。
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