空白となる、とうとつなる邂逅っぽいです
「母様……どうして……」
「母さん、僕は……」
呆然と呟く私と兄様。
予期せぬ突然の再会。
あまりの衝撃に空白となる思考。
そんな脳裏を過去の想い出が過ぎります。
キーワードは未来視能力保有者。
ユリウス様(観測者)の望む『起こり得る未来』に干渉出来る存在。
かつて日常の雑談として出た母様の何気無い一言。
更には治療術師としては聖女クラスであるも戦闘力をほぼ持たない母様が、
何故先代勇者のパーティに所属し闘い抜けたのか?
これらを統合し推測するに、答えは一つです。
つまり母様は……
「久しぶりだな、マリー……
こう言うべきかどうか迷うところだが」
「あらあら。
これはこれはユリウス様。
御無沙汰しております。
此度は子供達がお世話になりましたわ」
警戒するように尋ねたユリウス様に、肩を竦める母様。
その仕草に納得がいったようにユリウス様は目を細めます。
「やはりな。
カルの言った通り、貴様マリーではないな」
「あら、酷い。
どうしてそんなつれないことをおっしゃるのですの?」
「ふん。知りたいか?」
「ええ、是非」
「マリーはな……私程ではないが同系の力(未来視)を所持していた。
その事に気付き、勇者の導き手として指導してきたのが他ならぬ私だ。
よってマリーは私の事を『マスター』の敬称で呼ぶ。
大方マリーの表層意識を読み取り受け答えをしてるのだろう。
が、そこで知り得るのはあくまで断片的な知識と情動のみ。
深層心理面までは把握出来ない。
……そうだろう?
かつて辺境を震撼させた6魔将が一人、
地獄の道化師、<恐影>のパンドゥール」
「フフ……随分と詳しいのですね」
「ああ、お前達の事は個人的にも調べ上げた。
王立諜報機関の追随すら許さぬ秘匿性。
だが秘めた危険性は一国の命運を左右する。
お前達の為に未来視を駆使した結果がこれ(失明寸前)だが……
決して後悔はしてない」
「強がりではない御様子。
その心意気に応じ、騙るのはやめましょうか。
……こうしてお会いするのは初めてですね。
かつての私達の組織殲滅作戦の指揮官をなされた常勝の皇子、
忌まわしき槍皇が末裔、ユリウス」
嘲る様に慇懃無礼に一礼する母様。
いえ、母様ではありません。
本人が言う様に姿カタチはそのままですが今はパンドゥールなのです。
辛い現実ですがまずはそれを認めなくてはならないのでしょう。
幸いな事に、私達はその可能性を事前に検討しておけました。
そしてどう対処すればいいのかも。
その為にはまず、母様の身柄を確保しなくてはなりません。
瞬時に散開し、パンドゥールを囲む私と兄様。
そしてネムレス。
並ならぬ実力を察知したのでしょう。
その顔は厳しく張り詰められています。
「気をつけろ、シャスティアにユナ!
こいつ、魂喰いを行うぞ!!」
黒と白の双刃を瞬時に構えたのネムレスの警告。
同じく臨戦態勢に入っていた私達に緊張が奔ります。
「えっ!?」
「師匠、それは……」
「フフ……以前刃を交えてしまったのは失敗ね。
初見で確実に殺しておけば良かった。
まあ私達の追撃を躱した貴方が凄いと褒めておきましょう。
流石は琺輪の守護者、というところかしら」
「心にもない世辞を吐くな」
「あら、本当よ。
姿カタチすら違うのに、わたしをちゃ~んと把握してるし」
「俺は守護者として降臨する際、魂を『視る』力を付与される。
貴様の中で悲鳴を上げる魂達。
何よりその禍々しく混沌とした気配を読み間違う筈がない。
更に『喰った』な?」
「ええ、そうよ。
バレてるならば仕方ないか」
苦笑するパンドゥールの身体が天上が高い貴賓室の宙に浮かびます。
まるで風に煽られるように。
どこかで見た様な光景。
デジャヴュ。
忘れもしません。
あれは夏の惨劇を引き起こした元凶。
紅蓮の舞踊姫の異名を持つ異形、<怨焔>のエクダマートの!
「まさかアナタ……」
「そうよ、ユナちゃん。
彼女……エクダマートはね。
もういないの。
残ってた力の欠片ごとわたしが食べちゃったから。
今もわたしの中で彼女の怨嗟が渦を巻いてるわ。
うふふ……あははははははははははははははははははは!!」
端麗な母様の容姿を歪ませ、嗤うパンドゥール。
その身体から立ち昇り蜃気楼の様に空気を揺らすのは魔炎。
エクダマートと同一の異能。
となれば、先程の爆発音はやはり爆裂灰燼の術式だったのでしょう。
けど、どうして影使いであるパンドゥールがそれを?
「魂喰いはアストラルサイドからの強制的な同一化を行う業だ。
成功すれば対象の力を取り込む事が出来る」
「そ、そんなのって……
すればするほど増大していくじゃないですか!」
「いいや、違う」
「え?」
「事はそんな簡単じゃないんだよ、ユナ。
同一化を行うという事は対象の自我をも取り込むという事。
ユナは誰かと心まで交じり合い、それでも自分を保ち続けられる自信がある?
いや、記憶も感情も価値観も交じり合ったそれは果たして本当に自分なのかな?
魂喰いは成功すれば簡単に力を増強出来る。
しかしその為には自分を棄てなくてはならない。
あまりにも大きすぎる代償。
故に禁忌とされてきた訳だけど……
アレは最早、概念と化したバケモノ。
吸収されない内に母さんを取り返さないと」
強く愛弓を握り込む兄様。
いつも穏和な兄様ですが、今は怖いくらい真剣です。
ジリジリと包囲陣を狭める私達。
ユリウス様を警備していたアネットさんも手助けに来てくれました。
これなら!!
僅かばかりとはいえ、勝機を見い出した私。
でも、運命は残酷です。
そんな私を嘲笑う様に水を差すのは衝撃的な一言。
「あははははははははははははは……
はあ~おかしい。
まあ時間稼ぎはもういいか」
「え?」
時間……稼ぎ?
「もう充分でしょ?
やっちゃって、セバスチャン。
そしてルナ」
「はっ」
「了解~」
同時でした。
いつのまにか拘束を解かれていた……
いえ、そもそも本当に拘束されていたのでしょうか?
セバスチャン……ランスロード王家に仕える執事頭セバスチャン・C・ドルネーズが背後からアネットさんを刺すのと、
ルナさんが今まで練り続けた転移宝珠の術式が私達を効果範囲に覆うのは。
「どうして!?」
かろうじて叫んだ私の問い。
その想いにルナさんは、
「ごめんね~」
と童女の様に困った顔をして小首を傾げるのでした。
瞬時に身体を襲う浮遊感と酩酊感。
転移特有の感覚。
断絶される意識の直前。
すべてを嘲るパンドゥールの哄笑が脳裏に響く気がしました。
時間が取れたので久々に書き込めました。
いつもアクセスありがとうございます。
新規の方、これからも宜しくお願い致します。




