禁忌となる、きめやかなる魔技っぽいです
「しかしこのお湯は何と言うか……
心に沁みる感じですね(はあ)」
しっとりしているのにキメ細やかな肌触り。
広い浴槽の中、手足を伸ばしお風呂を堪能します。
良く考えればこの二日間、
気絶し、
探索し、
戦闘し、
離別し、
試練し、
再戦し、
再会して、と。
我ながら目まぐるしく活動してた気がします。
神威纏いし綬手<ハンズオブレベリオン>のお蔭で霊格が上昇した私は、確かにタフです。
HP回復効果のヒーリングが常時発動してるともいえます。
ですがそれはあくまで体力的な話。
激戦等で生じた精神的な疲労は澱の様に身体の奥底に蓄積されます。
けどそんなしこりがこの湯に浸るだけでほぐされていく気すらするのです。
まったりと感想を述べる私に、こちらもタオルを頭に乗せ完全リラックスモードのルナさんが微笑みながら話してきます。
「それはそうだよ~。
だってこのお湯、霊験確かな名泉<ヴォイルシー>から直接引いてるんだよ~」
「? 直接?」
「そう。延々と湯を吐き出す魔導製の獅子の像があるでしょ?
あれって一対になってて、片方が吸い込んだものがもう片方に転移するのよ。
本当は水不足を解決する為に生み出された魔導具なんだけどねー。
お金持ちはやっぱ違うわー」
しみじみと述懐するルナさん。
その動作に合わせて大きなものも揺れ動きます。
うう、何だか哀しくなってきました。
少し落ち込む私を余所にタマモはスイスイと泳ぎ始めてます。
意外に巧みなのには驚きましたが……
ちょっとハシタナイです。
私は溜息をつくとタマモを窘めます。
「ちょっとタマモ」
「なんですか、おねーさま?」
「少し明け透け過ぎますよ」
「まったくだな」
「えーそうですか?」
「色々なとこが見え過ぎです」
「ん~別にいいじゃない。減るもんじゃないし」
「駄目です」
「うむ。慎み深さは大切だぞ」
「そうなの? は~い」
私達の説得に大人しく腰掛けるタマモ。
うんうん。
素直なのは大事ですよね~^^
……え?
私、達?
いつの間にか湯船を出たルナさんは髪の毛を洗ってます。
じゃあ私の傍にいるのは……
立ち昇る湯煙。
邪魔なそれをそっと払い、ギギギと錆びついた機械の様に振り向きます。
そこにいたのは、涼しい顔をして端正な顔を拭う天使。
っていうか!
「うきゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ん? どうしたのだ、ユナ?」
「なななななななななんでルシウスがここにってぶぎゅる!?」
狼狽し足を滑らせお湯をしこたま被る私。
そんな私を呆れた様な視線で見詰め返すルシウス。
「風呂にいるのだ。
入浴しに来たにきまっている」
「いや、それはそうですけど!」
「それにここは我が一族の所有物である別荘だ。
余が入っても問題あるまい?」
「それは確かにそうなんですけど!!」
「ん? ではいったい何が問題なんだ?」
「それはほら、私も年頃の女性と云うか……
心の準備が、ですね……」
「ああ、なるほど。
心配するな、ユナ」
「?」
「余はこう見えても世話役の身体などで女体には見慣れている。
今更恥ずかしがる必要はない」
「いや、そうでなく……」
「それに安心しろ、ユナ。
余が太鼓判を押そう。
今は確かに貧相な身体かもしれん。
だが、将来的にはもう少しは成長する筈だ。多分」
私の慌てっぷりをどう解釈したのか、
ルシウスは腕を組みうんうんと頷き始めます。
完全に勘違いしてますし。
しかも、貧……相……
うふ。
うふふ……
ルシウス……アナタは今、言ってはいけない乙女のタブーを指摘してしまいましたね……
「タマモ」
「はっ」
以心伝心。
氷の様に冷たく呼び掛けた私の意を汲んで、
ルシウスの背後に回ったタマモが素早く羽交い絞めにして拘束します。
事態を把握してないのか、脱出しようともがくルシウス。
ふふ……まだ自らの窮状を理解出来てないのですね。
いいでしょう。
二度と忘れない様、この無慈悲な女王がその汚れなき身体に刻んで差し上げあげましょう。
「こ、これはどういうことだ!?」
「ルシウス……アナタは触れてはいけない闇に触れてしまった……」
「な、なんだ……と」
「よって愚かなる咎人に我が下すのは禁じられた魔技。
その名はくすぐり地獄!」
「!!」
「乙女の心を傷付けた罪は何よりも重いのです!」
「な、っちょ……
やめ、止めぬかユナ!」
「フフ……口では嫌がっても体は正直ですよ(くす)?」
「うっ……
あっあっはぁ……っく!
あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ルシウスの可愛い絶叫が浴室に響きます。
自業自得ですね、ふん(ちーん)。
くすぐりですよ?




