反響となる、かけはなれた願望っぽいです
「そ、そんな馬鹿な……」
ゆっくりと服を脱いでいくルナさんを前に、私は絶句し硬直します。
仲間、だと思いました。
未来を悲観せずとも生きていける、と思いました。
ですが現実は非情です。
魔術師のローブを脱いだルナさん。
少年のように細身で鍛えられた裸身が露わになります。
そこまではいいです。
しかしその胸元を覆うのは……
「ルナ……さん」
「ん? どーしたの、ユナちゃん?」
「それ……なんです?」
「ああ、これ?
これはねー東洋の神秘、SARASIっていうの。
あたしって昔から胸が大きくってねー。
魔術の補助動作の邪魔になるからこれで覆ってるの。
便利だよ~」
明るく笑いながらさらし布を解くルナさん。
隠されたものがポロン、と綻び出ます。
2つ。
かなり……大きい。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「お、おねーさま!?」
「裏切ったな裏切ったな裏切ったな!?
僕の気持ちを……願いを裏切ったな!!」
溢れる涙で視界が視えません(哀)
私は脱衣室の隅に寄ると、一人膝を抱え号泣します。
慌ててフォローに入ってくるタマモ。
共に脱いだ身体をよく見れば、幼女の癖に心なしか膨らんでいる気が!
そういえばタマモは「約束された勝利の体型」でしたね。
私の様な最下層民とは違いますよね!(涙)
ネガティブに挫ける私。
ルナさんはマイペースに下着を脱ぐと、浴室に行ってしまいます。
「二人とも~早くおいで~」
浴室から聴こえるルナさんの声。
反響するそれがどこか空々しいものに感じます。
「ほら、おねーさま」
「うう……この世には神も仏もいないんだ。
胸が無くとも人は生きていけるんだ……」
「何を人として駄目な事を言ってるのじゃ……」
呆れられ、思わず素に戻ったタマモに引き摺られる私。
まあ見た目は幼女でも、弱体化したとはいえ実際はS級冒険者に匹敵する妖狐ですからね。
これぐらいは容易でしょうよ(うふふ)
昏い半笑いを浮かべ引き摺られていく私。
ですが浴室に着いた瞬間、そんな気持ちも吹き飛びました。
「なんて……こと」
磨かれた大理石で造られた床。
黒曜石を削り鞣された浴槽。
延々と湯を吐き出す魔導製の獅子の像。
散りばめられた高価な魔照石が湯煙を幻想的に照らし出す浴室。
更には飲み物を持って傍らに控えるメイドさん!
そこにあったのは王侯貴族の社交場。
まさに別世界の風景でした。
「こ、こんな理想郷があって良いのでしょうか……
もしやこれは夢オチ!?(ハッ)」
「大袈裟じゃのう……
でなく、オーバー過ぎだよ~おねーちゃん。
これぐらい王侯貴族なら普通」
「そ、そうなんですか!?」
「うん。むしろ一国の跡継ぎならこれぐらいは大人しめかも」
「そうね~ユリウス様の身分を考えれば慎ましいくらいかもねー」
「せ、世界が違うです……」
世界観の相違に目が眩みながらも、浴槽に近寄り掛け湯します。
途端、手伝いを申し出るメイドさん達。
名残惜しくはありますが、私は身の程を知ってます。
申し出を丁重に断り、自らの手で軽く汗を流します。
驚いた事に泡立てた石鹸類は極上の感触で、肌を滑る様に包みます。
(うあ……きっと物凄く高いですよ、これ……)
根が貧乏性な私は戦々恐々と身体を洗います。
後で請求が来たりしませんよね?
そんな私の心配をよそに、ルナさんとタマモは泡をぶつけ合って和気藹々と打ち解けてます。
……何だか心配して損しました。
無駄に高いタマモのコミュニケーション力に感心しつつ、私は泡をお湯で洗い流します。
このお湯も温泉とは違うのですが、何というか湯質が滑らかというか肌に染み込むようです。
(はあ……お金って、使い方次第では何でも出来るんですねー)
自らの才覚で相場を動かす事に長けてる私でしたが、
書類上ならともかくこうして実際の恩寵を身に受けた事はありません。
儲けた資金は組織運営の為、そして何より救いを求める人々へのささやかな援助に回してしまうからです。
給金を考えれば組織の者は皆、元の商売の方が稼げたでしょう。
でもそんな事を気にせず私を支えてくれる皆が何よりも誇らしいと思います。
湯船に身体を沈めながら、私はしばらく顔を合わせてない皆の事を思い返すのでした。
ユナ……「遥か遠き理想体型」……




