陶酔となる、えもしれない美味っぽいです
「わあ……」
傅くメイドさん達に案内された先、
重厚な扉を開けて広がった風景に私は打ちのめされます。
落ち着いた雰囲気のゲストルームの中央、
そこに陣取るのは上品に飾られた色取り取り、様々なスイーツの山。
隣りのワゴンには古今東西の香茶のフレバーもあります。
「ホンの慰み程度ですが腕を揮わせていただきました。
よろしければお召し上がりください」
クールビューティな表情を崩さず告げ、一礼するメイドさん達。
私は夢遊病者の様によろめきスイーツに向かいます。
そっと気遣われ椅子を引いてくれた場所に腰掛けた私。
瞬間、早業でありながら匠の技のごとく目の前に差し出されるスイーツ。
震える手でナイフとフォークを握ると、私はそっと口元へ運びます。
「こ、これは……!!」
刹那、脳裏を駆け巡る電流のごときパトス。
味覚を刺激するのはあくまで控えめに抑えられた果実の風味でありながら、
その実濃厚な完熟度を漂わせるアクセントを秘めてます。
土台となるズポンジもただ焼き上げただけでなく、
幾重にも重ねられ調和を崩さぬ熟練の技に支えられた極上の触感。
更に脅威とすべきはこれらを従えるクリームエッセンス。
舌触りはしっとりとしているのに喉元を滑る様に気持ち良く包む天上の福音。
まさに、まさにスイーツ界の皇!
私はスキルに頼り切った自分の技量の甘さをとことん思い知らされました。
美味しいスイーツとはかくも人を感動させるのですね!
トレエンシア様の事を笑えなくなってしまいます。
「ユナ……先程から何をしてるのだ?」
「おねーさま……泣きながらスイーツを食べるのはちょっと……」
「まあ確かに美味しいですけどね」
「ああ。このレベルの味は俺の記憶する限り該当しない程だ。
ユナが壊れるのも分かる」
「絶品と思わぬか?
昔から兄上の御付きの者達の腕は確かなのじゃよ」
「確かに叔父上の言う通りだ。
懇談会では使節の者達がよく出された食事に感動してたな」
「美味なる食事は時としてどんな刃よりも鋭利な交渉の武器となるしねー」
「ほう。流石に物知りじゃな。
宮廷魔術師候補として長年王宮に仕えただけあるのう」
「へへ~まあね~」
「ただ年頃の娘がああも餓狼の様なオーラを漂わすのはどうなんだ?」
「気にしたら負けですよ、師匠。
妹は昔からあんな感じです」
「うーん……何かが満たされる代わりに、
等価交換で女子力が低下しそう……」
外野が何か言ってます。
ですが私は気にしません。
よく考えれば戦闘で消費したエネルギー補充もまだじゃないですか!
つい半日前にタマモと死闘を繰り広げたのが嘘の様です。
連戦に次ぐ連戦。
枯渇した気を回復する為にもこれは必要な儀式なのです、うん。
それに美味しさもさることながら……
何よりもメイドさんに囲まれたこの最高のシュチエーション♪
私の人生で二度と訪れないかもしれない黄金の瞬間でもあります。
ここを逃したらいつやるのです?
ならば今でしょう(古いですね)。
私は騙し切れない自分を何とか詐称すると、溢れる健啖な食欲を宥める事にするのでした。
……けふ(ふう)
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本編はほのぼのな日常編が続いてますが……
嵐の前の何とやら、です。




