警句となる、あさはかなる助言っぽいです
「師匠と共に……
行ってきますね、父さん」
「それでは、父様。
私もルシウス様に同行し、行って参ります」
兄妹揃って父様の前に赴き、頭を下げます。
一応出立の儀式というやつです。
私達の言葉に父様は目を細め、我が子の成長を喜ぶように微笑みます。
「ああ、行ってらっしゃい。
しかし……二人とも大きくなったな。
今回の件は自分の方が助けられたし、もうわたしの庇護は必要ないくらいだ」
「そんなことありませんよ、父さん」
「兄様の言う通りです。
まだまだ私達には父様が必要です」
「そ、そうか……」
親馬鹿なくらいに笑み崩れ応じる父様。
あ~これは駄目ですね。
眼を交し合った私達は苦笑すると駄目押しをしておきます。
「油断すると父さんでも危ないのは実感出来たでしょ?」
「もう現役から遠のいたんですから無茶は程々にしてください」
「大体父さんは昔から女性にだらしなさ過ぎだよ。
御近所の奥様達とお茶をするのだって、本当は母さん嫌がってたんだよ?」
「ホントですか、それ?
もう~少しは自重して下さい。
どこの鈍感系主人公ですか」
「父さんの力を頼りにはしないけど、
僕もユナも財政面の支援は必要なんで」
「同感です」
「お、お前達……」
ガクリ、と。
その場に手を付きドンヨリと伏せる父様。
少しやり過ぎな感じがしますが、このぐらい釘を刺しておいた方が父様の為でしょう。
元S級とはいえ、父様はどうも肝心なところで「うっかり」するとこがありますからね。
決してルシウス様を相手取って黒くなった訳じゃないんですよ?(うふふ)
自らの不貞を嘆き、絶望の呪詛を呟く父様を放っておき今度はファル姉様の方へ向き直ります。
「という訳ですから、姉様。
父様を宜しくお願いしますね」
「いざとなればガツンと言って構わないですから」
肩を竦める私達に、ファル姉様は上品に口元を綻ばせ、
「承知致しました。
でも御心配なさらずとも大丈夫ですわ。
昔からカル様は有言実行の方。
かつての矜持を思い出せば最高の英雄ですもの」
とにこやかに応じます。
憧憬対象に対する、夢見る乙女の様なその表情。
私達は再び顔を見合わせると、溜息をつきます。
「こりゃ~母さんが帰ってきたら一悶着あるね(はぁ)」
「ね。絶対修羅場ですよ」
小声で囁き合い、暗雲たる未来に今から昏い気持ちになってると、
「それじゃそろそろ転移するよ~
みんなあたしのところに集合~」
宝珠を操作してたルナさんが声を張り上げます。
特殊なフィールドを張って空間の座標指定を行う為、少し時間が掛かるとの事でしたが……思ったより早く終了するみたいです。
可能なら外部にいる他の方へも挨拶をしたかったのですが……仕方ありません。
簡易に荷物をまとめてくれてた姉様からバックを受け取り、急ぎルナさんの下へ向かいます。
地面に描かれた莫大な魔力と構成力を持った魔方陣は複雑に輝き動き、宝珠を操作するルナさんの指に追随します。
(そういえばいいの、タマモ。
墓所を離れて王都に行っちゃうけど)
(な~に構わぬよ。
お館様は安らかな眠りにつかれた。
再び巡り会う時まで世間を見て回るのも悪くない。
それに槍皇の末裔が築きし王都とやらも気になるしな)
一応意志確認をした私に、そっと念話で返すタマモ。
完全に、ではないでしょう。
けど愛しい人との別離は大分吹っ切れた様です。
希望を抱く明るいその想いに、私のした事は無駄じゃなかったな~と嬉しくなります。
おっと、大変な事を忘れてました。
王都に行く以上久々に直接顔を合わせる事になりますからね。
そっと運命石に触れ<記し>(メールみたいなものです)を発動しておきます。
「準備はいい?」
「ああ」
「うむ」
「いつでも構わんぞ」
「師匠に同じく」
「私もです」
「おねーさまと一緒~」
「気をつけてな」
「行ってらっしゃいませ、皆様」
「それじゃ、いっきま~す。
転移宝珠発動~」
やる気の無そうなルナさんの声に魔方陣が一際輝きを上げ、
私達を包み込むような浮遊感が襲来し思わず眼を閉ざします。
軽い酩酊感と共に視界がジェットコースターみたいに変動し、そして――――
次に眼を開けた瞬間、
私達は形容するのも馬鹿らしいくらいに豪華で豪奢なお屋敷の中に転移してるのでした。
お待たせしました。
王都編、本格的にスタートになります。




