悲壮な決意のようです
広大な墓所に悲哀に満ちた嗚咽の声が響き渡ります。
しかしそれも僅かばかりの事。
リューンに抱えられたタマモは私達に頭を下げると謝罪し始めまるのでした。
「数々の無礼、まこと申し訳ありませぬ。
ここに集いしそなたらのお蔭で、百年に渡る妾の悲願は達成させられました」
「そんな」
「まあ、これくらいはね」
「うむ」
「最小限の手助けしかしていないが、な」
「言うな、カルよ。ぬははははははは」
「まあ君を救う事を決めたのはユナだ。
礼を言うのならユナに言い給え」
「確かにそうじゃな、琺輪の守護者よ。
ユナ、そなたには感謝をしてもし切れぬ。
妾の心だけではない。
そなたはお館様の心をも救ってくれた」
「いえ、そんな……
私だけの力じゃ……(ごにょごにょ)」
「出来れば妾に可能な限り恩義を返したかったが……
最早限界のようじゃな」
「え?」
残念そうに呟いたタマモの身体が急速に崩壊していきます。
いえ、元々無理に堰き止めていた時間に現実が追い付いてしまったのです。
核を失ったタマモは、妖魔王とはいえ滅びは避けられません。
「こんな! せっかく分かり合えたのに!!」
「残念じゃ……そなたとなら妾も再び新しい生き方をやり直せると思うたが……」
「あんまりです!
どうにか出来ないのですか!?」
「妾も何とかしたいが……こればかりは、な」
「だって!」
声にならず崩壊していくタマモを抱き締めます。
溢れる涙。
このヒトは決して善人ではありません。
数多の災厄をもたらしたヒトでもあります。
だけど……こんな救われない終わり方をしていい筈がありません。
やっと、やっと過去の束縛から逃れられたのに!!
「何か、何か手は……」
縋る様に皆を見渡す私。
皆は気の毒そうに首を振ります。
しかし一人だけ私の瞳を力強く見返す人がいました。
リューンです。
リューンは何かを決意した眼差しで私を見詰めてきます。
「リューン……」
「ユナ」
「はい」
「どうしてもこの者を救いたいか?」
「はい……」
「それは何故だ?
君はこの者に傷付けられ、ヘタをすれば死んでいたのではないか?」
「確かにそうかもしれません。でも」
「うん?」
「救われぬ者に救いの手を。
それが綺麗事や御題目事に過ぎなくとも……
私は可能ならば手を差し伸べてくれた人を助けたい。
せめて目の前の届く範囲からでも」
「なるほどな……それがユナの在り方か。
ホント変わらないな、君は。
よかろう……吾が一族の秘儀、開帳するとしよう」
「え? それって……」
「それにはユナ……
君も多くの痛みをともなうが、良いか?」
「は、はい!
私に手伝える事なら何でも!!」
「例えばその御手の力を失う事になっても……か?」
「はい!!」
「……即断しよって。
意地悪く尋ねた吾が性格悪いみたいではないか。
まあいい、そこに座りたまえ」
「うん?」
リューンの示すまま四肢を失ったタマモに傅きます。
「さあタマモ。アレはどこにある?」
「何がじゃ? 幻想郷の守り手よ」
「無論、決まっている。
お前が切断したユナの腕だ」
「!!」
「冷酷に成り切れぬお前の事だ。
再会時にしれっと返す為にちゃんと保管してあるのだろう?」
「……否定はせぬ。
棺前の花々の中、停滞の呪文を施し隠してある」
「これか」
リューンがガサコサ弄ると何かを抱えやってきます。
妙に白っぽく細いそれ。
それは魔糸によって切り飛ばされた私の左腕でした。
「さて、ユナ」
「はい」
「この腕を媒介とし、タマモの核を再構成する」
「そんな事が可能なのですか?
現代魔術では及びもつかない……
それは最早魔法の域なのでは?」
「そんな大袈裟なものでは無い。
死者の蘇生ではなく核の再構成。
生と癒しを司る吾には比較的組みしやすい」
「充分凄いと思うのですけど……」
「まあ吾だけでは為し得ない秘儀故、
君の中に芽生える世界樹の力も借り受ける事になる。
この腕は永遠にロストし、君自身にも相応の負担が掛かる。
それでもタマモを救うか?」
「勿論です」
「即答だな。流石だ」
「ならば始めよう……
吾等一角獣の秘儀<御霊遷し>を」
いつにない真面目な顔をしたリューン。
私はその内に秘められた悲壮な決意に最後まで気付きませんでした。
他シリーズから来られた方、初めまして。
いつも読んで頂きありがとうございます。
シリーズ解説を致しますと、
ユナの二人の兄、ミスティが「学院シリーズ(一応完結)」
シャスティアが「タガタメシリーズ(クライマックス間近)」
百年前の大戦うんぬんが「現代転生勇者シリーズ」になります。
微妙に作品間でリンクしてまして、ゲストで出てたキャラが別のシリーズでは
ヒロインをしてたりします。
深く読んで頂けたらシャスとミラナは何故惹かれあうのか、なども解明されます。
お時間ある方はどうぞ読んでみて下さい。




