利己的なものによるエゴのようです
「傷付き病める人がいたら……
出来るかぎりでいいから助けてあげてね」
「どうしてですか、母様」
「互いが助け合えば、お互いが少しだけ幸せになるからよ。
決して神様が望むからじゃない。
内なる自分を育てる為にも必要なの。
利己的な理由も含むわ」
「情けは人の為ならず、ですか?」
「あら。難しい事を知ってるのね、ユナちゃん。
そうね……誰かに施す善意は、その人のためになるばかりでなく、
やがては巡り巡って自分に返ってくる。
勿論、善行をアピールしてるようでは駄目なんでしょうけど。
陰徳あれば必ず陽報あり、ってね」
「難しいです」
「うふふ。あんまり深く考えなくていいのよ。
困った人を助けたい。
それは余力があれば人が抱く自然な感情でしょう?
それを忘れないでね、というお話よ」
そう言って私を抱き締めてくれた母様。
たとえ綺麗事でも、幼子であった私達へ真剣に向き合いしっかり話す姿が忘れられません。
今は遠く離れてるとはいえ、
幼少期を共に過ごし、
人として尊敬し、
確固たる私を形成してるのは紛れない母様の愛情なのですから。
だから私も頑張りたい……せめて目の前で苦しむ魂だけでも救いたい。
それが利己的なものによるエゴだとしても。
「それで具体的にはどうするの、ユナ?」
「はい。皆の協力が得られるなら、アレイドを使います」
「アレイドだと?
ユナ、君はまさか」
「ええ。アレを使います」
「しかし<ブレイク>系アレイドは消耗が激しい。
ましてこれほどのものを打ち破るには相応の消耗は避けられないぞ?」
「うむ。確かに」
「ユナ……それはやめておきなさい」
「そうじゃぞ。急激なLPの消費は存在強度を下げる。
お主の生命存続に直結するのじゃぞ」
ネムレス達が心配し、父様とガンズ様が難所を示してきます。
それも仕方ないかもしれません。
LP<ライフポイント>はHPとは別に設けられた値です。
体力的な数値とは違い霊的な数値になります。
蘇生や致死性の攻撃に対する耐性といってもいいでしょう。
私がこれから行うのはその値を急激に下げ、下手をすれば永続的に失ってしまうかもしれません。
ですが切実な事にもう――
「時間が……無いんです、タマモには。
お願いです、皆さん。
私に力を貸して下さい!」
「僕からもお願いです。
妹は力を振るう意味も代価も分かって言ってます。
無茶で無謀な妹ですが、手伝って頂けませんか?」
私と共に頭を下げる兄様。
ごめんなさい、我儘な妹で。
でも私が私らしくある為には引けない時があるんです。
「まあユナがこの程度で引き下がる訳がない、か」
「確かに。頑固だからな」
「ではそうと決まれば急ごう」
「おう。頼んだぞ、ルシウス」
「了解です、叔父上!」
「皆さん……」
ガンズ様の要請を受け、ルシウスが個々の精神をリンクしていきます。
何も指示をしなくとも私の意向を汲み取って皆が動いてくれます。
退魔虹箒を構える私の前で、
シャス兄様が付与魔術を、
ネムレスが対抗魔術を、
父様とガンズ様が結界を打ち破るべく自分の特性をスタンバイします。
その事に心底感謝しつつ、私は符理解な編成統合によるスキル編成を行います。
行うのはネクロマンシーに属するであろう、複合型の――
「では、いきます!」
覚悟の決まった私の掛け声と共に、
兄様達から術式が飛び、父様達からは闘気の刃と念動力が発せられます。
封印である聖鏡の結界を砕くにはいきませんが、若干弱体化に成功。
今です!
「支援陣形特記<ブレイクシールド>!!」
形成された場の力が箒に集約。
振り抜く箒に宿った破魔の概念が、束の間とはいえ勇者と大賢者の障壁を破壊。
聖鏡の結界すら中和し、完全に凪の状態にします。
それは1秒にも満たない刹那の瞬間。
けれどそれだけで充分でした。
あらかじめ招いた符を握り締めるのは。
箒を持つ右手とは反対の左手。
胸元に構えた拳に力を込め、真横に力強く引きます。
星色の輝きを帯び宙に奔る軌跡。
それらは凝縮すると3枚の符になります。
符のそれぞれには<降霊><召喚><交渉>と書かれてました。
視界の隅でそれを確認しながら私は浮かび上がった符を握り締めます。
砕け散り霧散する符。
代わりに瞬時に現れたのは虹色の札。
返す指で私は札を掴み、掲げます。
微かな呟きと共に。
「<招霊対話>」
途端、札は眩い光を放ち、そして――
「お館、様……」
広大な墓所にタマモの呆然とした声が響きます。
何故なら驚愕に静止する彼女の前に、
穏やかな顔をした幽鬼の様な人物が立っているからでした。
全シリーズ更新第三弾。
お待たせしました更新です。
お蔭様でこのシリーズもお気に入り300人を達成しました。
50万アクセスも間近なのでこれからもどうぞよろしくお願い致します。




