激情を抑えきれず叫ぶようです
「どうして気付いた……とは問うまい。
悟られた衝撃より倦怠の方が強い現状では、な。
確かに生き続ける事を厭わしく思う想いは否定出来ぬ」
透明感のある眼差しで、どこか遠くを見据える白面。
その視線の先は私達でなく、まるで過去を振り返る様な感じでした。
「理由を……尋ねてもいいですか?」
「妾を打ち倒した当然の権利じゃ。構わぬ。
そうじゃな……何故死に焦がれるかといえば――
妾には……もう、生きてゆく意味が無くなったからじゃな」
「え?」
「妾が生き続け霊廟を守り続けたのも、
全ては愛しきあの御方が帰る日を待ち望む為。
それだけが妾の全てであり、存在理由じゃった。
あの御方と過ごした夢の様な時間は今も鮮明に思い出せる」
恋する少女みたいに無垢な顔を覗かせる白面。
あの御方とは勿論ここに封ぜられた死霊王の事でしょう。
暴君と名高きいにしえの皇。
ですが彼女にとっては何よりも大事な人だったのでしょう。
「光明の勇者に討伐されてより100年、妾は待ち続けた。
あの御方の帰還を。
そして十数年前、ついにあの御方は復活された……
妾の、望まぬカタチで」
「それは……?」
「復活したあの御方は……理性などない、
ただ死と妄執に駆り立てられた概念と化していた。
妾も秘儀を尽くしたがどうにもならぬ。
霊的な本質が崩壊しておったのじゃ。
黄泉帰ったあの御方は妾の望んだ人ではなかった」
「貴女はそこまで……」
「故に勇者共がここへ討伐しに来た時に妾が感じたのは……
現実味のない後悔と奇妙な安堵感じゃった。
滅んでほしくはない。
じゃがあの御方との想い出を汚さずに封じてほしい。
だから積極的に手は出さず見守った」
「死霊王の討伐……あの戦いの時に従者であるお主が非協力的だと思ったのじゃが、そういう背景があったとはのう」
「確かにわたしも疑問を抱いてはいたが」
「<天撃>と<闘刃>か……
<雷帝>はいないのだな」
「アイツは……」
「まあいささか事情があってな、な」
「そうか……縁ある汝らになら討たれてもいいと思ったが……
流石に弱過ぎた。
なんじゃあの体たらくは。
平穏な日々で堕落しておったのか?」
「うぬう」
「弁解の余地がない」
うなだれるガンズ様と父様。
驚異的な強さを持つ二人ですが、白面いわくそれでも弱体化したとの事。
っていうか、弱体化した現状であの強さだと言うなら、
全盛期はどれ程の達人だったのでしょう(汗)。
「ふん。汝らが応援に来たのは確かに驚いたがな。
じゃがアレでは妾亡き後、この霊廟に来るモノの示しにならぬ。
それ故再戦を望むであろうユナ達に期待したのじゃが」
チラリと私を見やる白面。
何でしょう?
「まさか琺輪の守護者に幻想郷の守り手、
更に暗……の転生体を伴うとは(ハア)。
予想外にも程がある。
それにユナ自身も世界樹の恩寵を身に宿してくるとは想定できぬ」
呆れた様な白面の視線を受け、左腕を見る私。
溢れ出る力が一際激しくうねる気さえします。
「まあそんなこんなでな。
汝らになら討たれてもいいと思ったのは確かだ。
前回黄泉帰られた際に、妾は打ちのめされた。
もう……妾の望むあの御方はいないのだ、と。
ここ十数年蓄積していくのは飽くなき滅びへの渇望と安寧。
妾は……生きて存在する事に疲れたのじゃ」
溜息と共に内心を吐露し、閉眼する白面。
美麗なその顔が一気に老け込んだような気さえします。
ですが私は――
「ふざけないでください!!」
沸き上がる激情を押さえ切れず、激昂し叫ぶのでした。




