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賽は投げられたようです

 三派に分かれ駆け出す私達。

 玉座の右手側、

 空恐ろしい程の闘気を放ち刀を構える父様に対し、私と兄様。

 玉座の左手側、

 暑苦しいまでの筋肉を誇示するガンズ様に対しリューンとルシウス。

 それぞれが最低限のペアリングを形成し、迎撃に応じます。

 各々が出来る事を検討し、何を為せるかのシュミレーション。

 事前の打ち合わせでこれが最良ではなくとも最適だと判断したからです。

 無論迷いがないとは言えません。

 しかし賽は投げられました。

 それにこうして悩んでいては彼に失礼です。

 中央を疾風のごとき速さで駆けるネムレスに謝罪の視線を送りながら、

 私は加速された意識の中で思います。

 そう、このフォーメーションの要は彼に掛かってます。

 王であり最も力を誇るべき駒である白面を私達が集うまで押さえるのが彼の役目です。

 それは口で形容できるほど簡単な事ではありません。

 けど私は「出来る」と力強く請け負ったネムレスを信じたいと思います。

 だから今は迷いを振り切り、ただ戦いに挑みます。

 咆哮にも似た叫びが反響する玄室で、私達はついにS級クラスと相対します。






>ユナ・シャス ペア


 戦端を開いたのはシャスの弓矢だった。

 威力全開、最大の気を込めた銀矢が放たれる。

 それは絡み合う蛇の様に螺旋を描きながらカルに突き進む。

 通常なら如何なる存在とて遮る事は叶わない絶対の一撃。

 しかし残念な事に二人と相対してるのは規格外のバケモノであった。

 無造作に刀を振るい、高速で迫る矢に闘気の刃を放ち迎撃する。

 まるで誰にでも出来る軽い準備運動の様に。

 だがそれはシャスの思惑通りだった。

 元よりS級に対し正攻法が通じるとは思ってない。

 シャスの本命は地面に落ちた鏃。

 大地に突き立ったそれ。

 あたたかな恩恵を吸収し立ち昇るのは即ち――


「<破邪降雨銀嶺陣>!」


 地面より槍衾のごとき無数の軌跡が突如生まれカルを狙う。

 無表情だった仮面のごとき容貌に初めて軽い驚きが奔る。

 これこそシャスの目論見であった。

 高レベル所持者相手に正攻法は通じない。

 ならばどうするか?

 その結果がこれだ。

 スキルの二段構え。

 可能かどうか、検討をする者とていない方法。

 最初のスキルを次のスキルへと繋げるコンボとでもいうべき連携であった。

 通常の概念を打ち破る思考法。

 だが琺輪の守護者であるネムレスより常道に当てはまらない戦い方を学んでいるシャスにとっては至極普通の方法であった。

 その有用性は計り知れない。

 現に遥か格上のカルにすらそれは通用した。

 薙ぎ払い、僅かに体勢が崩れたカル。

 カル程の腕前でもこれほどの数の矢を躱すのは至難の業だ。

 幾らS級とは、これほどの矢を受けては死ぬ事はないにしても行動の減衰は確約される。

 シャスは必中を察知し喜色を浮かべ……その顔が驚愕で凍る。

 

「冗談でしょ、父さん?

 それは幾らなんでも――」


 苦い笑いが浮かぶのをシャスは自覚する。

 躱すのは難しい。

 ならばどうするか?

 その結果がこれだ。

 全て叩き切ればいい。

 霞のごとき瞬息を体現したカルの斬線。

 瞬く間に中空に輝線を迸らせ矢を打ち砕く。

 100近いそれが全て砕けていくのをシャスは弓手ならではの超視覚で捉える。

 流石はS級。

 自分はまだまだ井の中の蛙。

 大海を知らずいい気になっていたらしい。


「でも、父さん。

 残念だけど本命はそっちじゃないんだ」


 苦笑を微笑へと変えるシャス。

 そう、この一連のやり取りすら全てはここへの布石。

 視界から消えていたユナを探すカル。

 されど時は既に遅し。

 闘衣を纏い<気と魔力の収斂>を発動させたユナはスキル<縮地>を発動。

 兼ねて発動させた流動と共に全身全霊でカルに生じた隙へ潜り込む。

 無論カルとて並みの剣士ではない。

 加速された体感覚を総動員し、数多の闘気の刃を形成。

 五月雨のごとくユナに叩き付けようとするのだが――


「無駄です」


 ユナが旋回したただ一振りにて全ては掻き消える。

 まるで泡沫の夢の様に。

 先程の出来事のリフレイン。

 ただし対象は自らとなった。

 真に恐るべきはユナの退魔虹箒の効力。

 事前に識別していたとはいえ、S級冒険者の必殺を無効化してのける汎用性。

 まさにチートの名に相応しいと言えた。

 一方、刀の間合いを潰されたカル。

 すぐさま柄から手を放し白兵戦に持ち込もうと構える。

 カルは実戦を想定したノルファリア練法の遣い手。

 当然不測の事態にも対処すべく身体が動く。

 この場合は組打ち術へ移行するようになっている。

 熟達の域に達したそれは難無くユナを捕え、骨を砕くだろう。

 そう、通常なら。

 相手が同じノルファリア練法の遣い手でなく、

 カルが明鏡止水のごとき通常時の精神状態なら。

 やはり魅了状態というのはレスポンスが少し遅れる。

 それは呼吸半分にも満たないホンの些細なもの。

 だがその僅かな差が接戦では致命的になる。

 あるいはこういえばいいか?

 カルは剣士してではなく父親としての自分に負けた、と。

 こうしてる間も彼の人格は精神の奥底で抗っているのだから。

 よってこれは必然。

 完全に間合いに入ったユナ。

 闘気を集約し、全力で放つのは新たに宿せし力。

 その名も――


「神威纏いし綬手<ハンズオブレベリオン>!」


 霊格高きその一撃が、鍛え込まれたカルの闘気防壁、筋肉を無視し、ただの一撃で意識を刈り取る。

 高位の位階所持者となったユナの一撃は霊質的なダメージをも波紋させる事が可能なのだ。

 彼女が望むなら上位眷属と互角に戦う事も出来るだろう。


「ふう~

 世話の焼ける父様です」


 倒れ伏したカル。

 すぐさま息を確認。

 特に大きな外傷はなく失神状態である事を把握。

 安堵の為か、可愛らしい微笑みを浮かべ汗を拭うユナ。

 歳相応のあどけない容貌からはそんな凄みなどは一切感じないだろうが。

 何にせよ彼女達は勝利した。

 その事実に浮かれるのではなく、すぐさま別の方へと視線を向ける二人。

 そこで繰り広げられていたのは――

 




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