何故か驚愕し戦慄してるようです
「しかしまたも邂逅しようとは、な。
余程命が惜しくないか……
はたまた身の程を弁えぬ愚者なのか」
豪奢な玉座の上。
まるで下々の民を睥睨する王のように嗤いながら白面が語り掛けてきます。
ただそこにいるだけで気圧されそうな存在感。
災害級の字名は伊達では無いようです。
前回は不意の遭遇とはいえ、恐縮し、何も為せませんでした。
でも今は違います。
精神的なバットステータスを払拭する、ルシウスが展開してくれたサイシールドも有効に作用してますし、何より心から信頼し頼りにしている仲間が傍にいてくれるという安堵感があります。
だから私はその問いに毅然とした態度で応じる事が出来ました。
「取り返したいものがありますから」
「それはこの二人かえ?
生憎じゃが妾の魅了の虜になっておるようじゃぞ」
私に返事に面白がるように父様とガンズ様を見下ろす白面。
虚ろな目をしている事から薄々推察出来た事ですが、父様達は白面の魅了に囚われてしまった様です。
高位眷属がよく使う技で、持ち得た技能を維持したまま仲間に取り込む事が出来るのが厄介といえましょう。
伝承に聞くだけでも、
視線を媒介したもの。
血液を吸う事による魂的な呪い。
あるいは影や契約を主体とした複合術式など、その方法も実に様々です。
事前のミーティングでこういった事態はある程度想定出来てました。
金毛九尾の特性として魅了があげられるのもありますし、
貴重な交戦経験から白面が糸使いの技能を持つ事も判明してるのですから。
糸使いといえばマリオネット。
新宿区の煎餅屋さんや口笛の巧みなマント怪人を例に取るまでもなく、
神経系を支配し人を意のままに操る魔技です。
それ故に対抗すべく、少し小細工をしてきたのですが……
ここまで何も気付かれてない以上、どうやら上手に誤魔化せてるみたいですね。
まあ何はともあれ現状はこの二人です。
戦闘になる事を前提として、ある程度策は練ってきました。
後は実践あるのみです。
「確かに指摘通りですね」
「本当に」
「困ったもんじゃな」
兄様とルシウスを目線を合わせ頷き合います。
その顔は苦笑してました。
きっと私も同じ顔をしてると思います。
だって二人は私達にとって何物にも代え難い家族ですから。
家族を取り戻す為なら私達は何でも出来ます。
出来ちゃうんです。
「ならば目を冷まして差し上げないと」
「同感だね」
「うむ」
身構える私達。
様子を窺っていたリューンとネムレスも戦闘態勢に入ろうとします。
「相談事は終わりか?
ならば始めるとしよう……
家族が傷付け合う、血の」
「父様の……
浮気ものおお~~~!!」
気取りながら開幕を告げようとした白面でしたが、
宣言を遮る様に私は勢い良く絶叫しました。
声の内容を聞き留めた白面が目を丸くしてます。
クールで陰惨なイメージが消え、あどけない素顔を晒してます。
悔しいですけどちょっと可愛いと思っちゃいました。
「な、何を言っておるのじゃ、おまえた」
「父さん……母さんが今の父さんの姿を見たらどう思うかな?
配偶者の不在時に妙齢の女性と一夜を過ごす……
これって結構言い逃れできないよね?
残念だけど僕は母さんの味方をさせてもらうよ」
「叔父上……前々からおっしゃっておりましたな。
健全なる身体には健全なる魂が宿る、と。
今の操られてる状態は如何なんでしょうか?
まさか叔父上ともあろうお人が、口だけで実践出来ない様な最低限度の倫理観を持ち得ない方でないとは思いますが……」
エトセトラエトセトラ。
出るわ出るわの罵詈雑言。
え? 二人とも本当に敬愛してます?
ってくらいに矢継ぎ早に舌鋒を繰り広げてます。
無論意味になく罵倒してる訳ではありません。
言葉を投げ掛けてる内に、魅了され無表情だった二人の額に汗が浮かび上がってきました。
どうやら上手く言ってる様ですね。
ルシウスの提案で、精神系な魅了状態でも卓越した精神力の持ち主ならその奥底で自我は保たれてるとの事。
上手く覚醒に導くには刺激が必要らしいです。
故に、この鋭く肺腑を抉る様な心無い言葉の数々。
それは繊細な二人の心に楔を打ち込むことに成功しました。
後はトラウマにならぬ様、慎重に広げていくだけです。
流石は私達。
計算通りです♪
ん~
計算……通り、ですよね?
何だか未だ無表情な筈のお二人からどんよりした陰鬱な気を感じるんですが……
少し、やり過ぎてしまったのでしょうか?(てへ☆)
「恐ろしい方法で解除を試みるな、汝らは。
最早一刻の猶予もやらん。
侵入者を排除せよ、妾の僕たちよ!!」
何故か驚愕し戦慄してる白面の号令の元、
ついに戦闘態勢を取る父様とガンズ様の二人。
私達も最低限のレイド(ペアリング)を形成し応対します。
こうして戦闘の火蓋は切って落とされるのでした。
言葉のナイフが肺腑を抉る。
そんなほんわか罵詈雑言ファンタジー(え




