破竹の快進撃のようです
破竹の快進撃。
まさにそうとしか形容出来ない勢いで迷宮制覇に乗り出した私達。
あのモンスターハウスにも似たデストラップを切り抜けてからというもの、
目に視えずともどことなくあったパーティとしての不協和が消え去り、
全てが澱みなく躍動をし始めました。
守護者として迷宮の構造や罠等に熟知したネムレスの指揮の元、
意志ある者を事前に感知出来るルシウスがサーチ役、
機敏で手先の器用なシャス兄様がスカウト役、
私が持ち前のスキルを動員しサポート役、
幻獣であるリューンが後詰役、と。
己が仕事を完璧に全うしたからです。
特には軽口を叩き合い、少し剣呑な場面もありました。
だけど陰鬱で長い迷宮探索にはそれも精神のスパイス。
いいガス抜きとなります。
共に辛い一時を過ごしているという事。
それは密接な連帯感となっていく感触すら感じさせます。
私は背中を任せられる人達がいるという安堵感に、
不本意ですが「いいな……」って満たされてました。
母様を失ってから……
いえ、正直に言うなら――転生してからの私は、
最終的にはどうしても自分がという概念を捨て去る事が出来ませんでした。
誰かに任せるという事に対し内罰的というか頼れないのです。
何かをして頂いた時、
嬉しい。
ありがとう。
という気持ちよりも、
ごめんなさい。
申し訳ない。
という気持ちが先立ってしまうのです。
これは人として狭量であり性分でもあります。
けどここに並び立つ人達は、皆対等です。
誰が秀でる訳でも劣る訳でもない。
全員がパーティと云うものに対し平等に責任を保っている。
しかもごく自然体で。
その事実が「何でも一人で頑張らなきゃならない」と、
肩肘を張ってた私の頑なな心を解かしていったのでした。
それはきっと兄様やルシウスも一緒だと思います。
だって私達は似た者同士ですから。
大人組から見ればきっと歯痒かったでしょうね。
でももう大丈夫。
今回の事を通して私達は誰かに頼る事をちゃんと学習しました。
だから、
立ち塞がる屈強なガーディアン、
奇想天外で驚異の罠の数々すら苦にもせず乗り越え、
ついに私達は霊廟の最奥、玉座の前に辿り着いたのでした。
装備の最終点検を軽くこなした後、ネムレスが振り返り喋り出します。
幾ら守護者とはいえ不安はあるのでしょう。
あるいはこうして話す事で、皆の不安を少しでも軽減しようとしてくれてるのかもしれません。
「……という訳だ。
さて、この扉を抜ければいよいよこの迷宮の最奥だな。
突如の遭遇を警戒してたが、どうやら穴熊を決め込んでいたらしい」
「師匠の推察通りでしたね」
「ああ、そうだな。
だがまだ油断は禁物だ。
今しがた調べたところ扉に罠は無い様だが……
ルシウス、どうだ?」
「うむ。思念の糸は潜り込むのだが……
内部は濃密な瘴気と怨念に満ちている。
残念だが詳しい様子は探れない」
「それだけでも充分だ。
ここに金毛九尾の狐がいると判明した事になる」
「そうか。ならば良かった」
「うん、助かったぞ。
では当初の予定通りでいこう。
頼めるか? ルシウス、リューン」
「ふむ……心得た」
「ふん……まあよかろう」
ネムレスの要請に応じたルシウスとリューンが己が特性を付与していきます。
ルシウスが担うのは精神的な賦活。
高位の位階所持者相手に恐慌、萎縮などを起こさない様、メンタル的なシールドを張り、更には鋼鉄の様に揺るがない凪の精神を宿します。
リューンが担うのは肉体的な活性。
無理のない限界ギリギリまで神経と筋力を活性化させると共に、肉体のポテンシャルを総動員。
更には恒常的な自己治癒の強化を施すという、まさに荒業。
大変便利な二人の特性です。
が、残念ですがこれは最終手段。
こんなトップギアの状態は長時間維持出来ません。
活動限界時間を超えたら下手をすれば動く事すら困難になってしまうでしょう。
もって30分間。
その前にこの特性を解除しなくてはなりません。
災厄級に対抗する為とはいえ、それは危険な諸刃の剣です。
「準備は整った。
皆、いいな?」
「はい!」
「うむ」
「ふん」
「お願いします、ネムレス」
「よし……ではいくぞ」
禍々しくも重厚な扉に手を掛けたネムレス。
重々しい音と共に、ついに玉座への道が開かれました。
そこにいたのは――
「ようこそ、定命なる者達よ。
どうやら恐れを知らぬと見える」
蠱惑的な口元に苦笑を浮かべ玉座に腰掛ける、
九本の尻尾を生やし艶やかな着物を纏った淫靡なる絶世の美女。
更には――
「父様!」
「父さん!」
「叔父上!」
精気が無く虚ろな目をして白面の者の両脇に控える、
父様とガンズ様の姿でした。




