皆の絆で対抗するようです
「続けて、リューン。
防壁展開!」
兄様のお蔭で多少は目減りはしたものの、
未だ雲霞のごとく押し寄せてくる軍勢。
皆を獲物と見定め襲い掛かってくるそれらを、
退魔虹箒を持った私と共に卓越した剣の技量で捌きながらネムレスが叫びます。
「分かっておる!
吾に指図するな!!」
不貞腐れた様に応じるリューンでしたが、今は一秒を争う事態。
前衛を務め襲い来る不死者を軽くあしらっていた手を止め、後衛に後退。
閉眼し、意識を集中します。
勿論その間は私とネムレスが間を埋めます。
個々の技量は低いものの、やはり数の多さがネックです。
油断し捌き方を一度でも間違えばたちまち軍勢に呑み込まれるでしょう。
そうなれば私達はともかく、兄様とルシウスの生存は絶望です。
「早く、リューン!」
祈りにも似た私の要請。
それが通じたのか、リューンがカッ! と開眼します。
「待たせたな、ユナ。
癒しの力よ! 吾等を覆う帳と成れ!!」
力ある言霊と共に空へ手をかざすリューン。
その手から放たれたのは莫大な癒しの力。
私達パーティを囲む様に展開されたそれは蚊帳の様に薄いヴェールとなります。
清浄なるそれはまるで白きオーロラの様です。
「ga? gyyyyyyyyyyyyyaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
障壁を意にも介さず突貫してきた不死者達。
その事ごとくが絶叫しながら崩れ落ちます。
死霊系に到っては抵抗の余地なく消え去ってしまいました。
何故ならリューンが展開したのは不浄なる者共にとって侵されざる聖なる壁。
神官の扱う聖域の法術にも似た力なのですから。
聖域は防御に長けた法術の中でも特殊な位置付として認識されます。
この障壁内にいる間は常在的な回復状態になり防御力が底上げされるというのも勿論ですが、対不死者戦闘においてはこの聖域は攻勢法術ともなるのです。
生命を活性化する力。
生命に反してる存在。
相反する属性が互いを食い破ろうとします。
つまり私達にとっては継続的な回復状態が、
不死者にとっては継続的なダメージ状態な訳ですね。
それでも身体がある亡者達などはまだ良い方で、
幽体だけの存在である死霊などは気合を込めても抗えず一撃死です。
分かりやすく某ゲーム風に言うなら、
敵全体にフェニックスの○、もしくはケ○ルガ(れんぞくま)。
あれ?
でも私達は回復してますし……
じゃあシリーズ5ならばリフレクションの後に反射魔法を……
う~ん……
ま、いいです。
様はこれで『不死者』はしばらく近付けないという事。
後に残されたのは「意志を以て襲い来る不死者以外の存在」です。
ならば次の行動は――
「ルシウス! 断ち切れ!!」
「了承した!」
リューンの及ぼした効果を見定めるまでもなく、ネムレスが再度叫びます。
今まで後衛で異能の力を集中させていたルシウス。
矢を射掛け続けているシャス兄様の邪魔にならない様に飛び出ると、
大きな音を立てて柏手を一つ、自らの力を解放します。
途端、
ブレーカーが落ちた様にその場に立ち尽くす軍勢。
これこそルシウスの精神干渉系能力の妙技。
他者を操る傀儡系の業ではなく、
逆に相手に処理能力を超える情報量を瞬時に叩き付け一時行動不能に陥らせる。
名付けて驚愕隔離。
派手な行動や大きな音を媒介とする為に仕掛ける難しさはありますが、
弱点を補ってあり余る効果といえるでしょう。
打ち合わせの段階でネムレスに指摘され自分の力の方向性に気付いたルシウスでしたが、ぶっつけ本番という最悪の状態でもこれほどの成果を発揮させるとは。
大広間に残された不死者以外の敵は全て金縛りにあってる様でした。
「いくぞ、ユナ!
残りを殲滅する!」
「はい!」
これで全体の3分の2は行動不能に出来たでしょうか。
ならば後はこちらから打って出るのみ。
障壁を飛び出し葬送の双刃を振るうネムレス。
私も負けじと後を追い、箒を振るい魔を祓います。
適宜に援護射撃をし、戦いやすい場を構築してくれるシャス兄様。
金縛り状態の敵にホンの僅かだけ干渉し、魔方陣の出口を塞がせるルシウス。
少しでも傷を負わない様、全体を見渡し幻獣としての特性を振るうリューン。
皆の呼吸までもが一つになるかのような錯覚。
まるでそれは一個の生き物の様な。
とても息の合った連係でした。
そして30分後。
「よし、召喚陣を全て潰した。
これで終了だ」
召喚の魔方陣へ刃を突き刺したネムレスが高らかに宣言します。
呆けた様な顔の後、喜色を浮かべて歓声を上げる私達。
単純な戦力数 VS 個々の力 × 個々の特性 × 個々の意志
圧倒的な数の暴力を前に、どうにか皆の絆で対抗出来たのです。
何よりもその結果は、私にある事を深く知らせてくれました。
私は戦える。
無力じゃない。
先日の戦いで絶望し掛けた私にとって、こんなに喜ばしい事はありません。
それはきっとルシウスも同様でしょう。
いつもクールな顔を紅潮させてますし。
覗き込んで顔を確認しようとしたら下を向かれました。
どうやら自覚はあるようです。
あ~もう、可愛いですね。
心から湧き上がる邪な衝動。
本能の命ずるままルシウス抱き上げると、クルクルと回る私。
ルシウスは抵抗する事も出来ず慌てた様にしがみ付いてきます。
そんな私達を見て目を丸くする兄様。
不機嫌そうにしながらも嬉しそうに鼻を鳴らすリューン。
苦笑し肩を竦めるネムレス。
フフ……このパーティは最高です♪
こうして私達は、
最悪にも近いデストラップを誰一人も欠ける事無く切り抜けたのでした。
いつもご覧頂きありがとうございます。
何でアクセス増えたんだろう?
と疑問に思ってましたが……
オーバーラップ文庫WEB小説大賞の一次選考に通過してたんですね。
すごく嬉しいという事と共に、応援して下さる皆様のお蔭でもあります。
これからもどうぞ宜しくお願い致します。




