反撃の嚆矢となる始まりのようです
モンスターハウス。
それは領域侵犯系デストラップの一種です。
ネムレスはタイプ:軍勢型と述べましたが、同一と考えていいでしょう。
某有名無作為迷宮探索ゲームを例に取るまでもなく、
不用意に遭遇してしまった場合の対処のし辛さは理解できると思います。
何故かといえば、それは並大抵の武勇を上回る圧倒的な物量による圧力があるからです。
個々の敵ならば問題はありません。
一体一体から受ける損傷もホンの僅かでしょう。
しかしそれが累積されていった時……
決して軽視出来ない事態を引き起こします。
具体的に謂えば、古代竜の革鎧にノルファリア練法によって闘気を纏う私は、
カテゴリーでいえばBランク以下の存在にはダメージを負う事はないでしょう。
リューンがくれた尻尾飾りによる自己治癒効果もありますし。
ただそれで傷を負わないからといって、楽観は出来ないのが現実の難しさ。
もし身動きが取れない様に抑え込まれなどしたら?
待つのは緩慢な死(窒息等)です。
他にも麻痺や毒など、徐々に身体を蝕む系の攻撃も問題でしょう。
だからこそ、この様な事態に追い込まれた際の鉄則は唯一つです。
囲まれない事。
それは可能ならば突破口を開く余力を残す事に繋がります。
戦術指揮をするネムレスの判断も同様のようでした。
「シャスティア、前衛へ斉射二射!」
「了解!」
迫り来る軍勢に対し、口火を開いたのは兄様の弓矢です。
双刃を携えるネムレスの鋭い指揮に応じ、引き絞った銀矢を構えます。
そんな兄様を視界に捉えるも、意にも介さず疾走する軍勢。
退魔の力が付与された銀矢とはいえ、小さな矢で仕留められるのはホンの一~二匹が限度。
後は生き残り辿り着いたモノが 鏖 殺すればいいのですから。
戦法としては何も間違ってはいません。
常道中の常道といえるでしょう。
ただ、彼等の誤算は――
「<破邪降雨銀嶺陣>!」
相手が弓手村のホープにして、ノルファリア練法の使い手、
ノルン家の次兄、シャスティア兄様だった事です。
言霊を核とし、放たれた銀の矢。
暖かい大地からの恩恵を自らの思念に同化したそれはまさに幻想。
蒼い光を纏った銀の矢が、中空で幾重にも分裂。
無数の煌きと化して立ち塞がる数多の魔を凄然と屠り去ります。
兄様がネムレスから学び得た弓手固有のスキル。
気を媒介とし属性を付与された矢の雨を降らすという絶技。
今は絶えた対多数戦闘用の技でもあります。
ですがこれはあくまで序章。
多くの軍勢を足止めする事には成功しましたが、まだ勢いは止まりません。
自らの窮地を把握できない低能な輩には、哀しい事ですが力を以って示すしかないのです。
だからこそ次に振るわれるべき業はアレになります。
兄様が最も得意としているだけでなく、
代名詞の由来ともなった最も威力の高い業。
弓手に与えられし基本にして最高の御業。
その名は――
「螺旋を描く蛇神の牙!」
裂帛の気合と共に放たれたのは二本の銀矢。
それはまるで互いに絡み合う蛇の様に交叉しながらも、
暴風の様に渦巻き闘気の余波を炸裂させます。
轟音と共に中心部に風穴を開けられた軍勢。
無表情なアンデット系が多いのにどこか驚愕したような表情を窺わせます。
まあ確かに規格外ですからね、兄様も。
これほどの威力を持つ弓手はフェイム村だけでなく辺境を探してもそうはいないでしょう。
ノルファリア練法を学ぶだけでなく、流石は守護者に鍛えられてるだけの成果はあります。
戦場を裂く一条の銀。
そしてこれこそが反撃の嚆矢の始まりとなるのでした。
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