泰然自若故の落ち着きのようです
「さて、視界の及ぶ50メートル範囲内に脅威的な外敵はいないようだ。
いきなり白面の者と相対するという事態は避けれそうだな」
「分かるんですか、ネムレス?」
薄暗い照明に照らされた墳墓内。
澱んだ空気に辟易しながらも隊列を整えた私達に対し、
いつにない厳しい顔をしたネムレスが告げます。
しかしこんなに見通しが悪いのに外敵を察知出来るというから驚きです。
能動型の感知系スキルを持つ私でもその範囲は10~15メートルがやっと。
もしネムレスの指摘が確かなら、私の4倍以上の索敵能力を持つ事になります。
「弓手は目が良くなくてはならないからな。
その他弓手特有のスキル『鷹の目』というものがある。
これは視界内の存在を俯瞰的に捉え敵性を測る事が可能だ」
「便利なんですね」
「何、初歩だよ。
先日シャスティアも開眼した筈だ。
どうだ?」
「師匠程ではありませんが……
ええ、20メートルまでは何とか」
「ふむ。初期段階でそれなら将来は有望だな。
ユナはそのまま感知系スキルを発動していてくれ。
私とシャスの弱点はあくまで視界内にいる存在という制約がつく。
害意がある不可視存在等には効果が及ばない。
特にルシウス」
「何だ?」
「精神干渉系の糸を伸ばせる君なら意志ある存在の索敵は容易だろう?
期待しているぞ」
「うむ。任せるがいい。
ユナと共に潜った時も、余の索敵は適宜であった」
「ならば結構。
ただ油断は禁物だ。
この墳墓内はともかく、霊廟のある地下迷宮では何が起こるか分からん。
各自警戒を怠らない様に」
「はい、師匠」
「了解です」
「うむ。心得た」
「偉そうに指図される謂われは……
いや、違うぞユナ。
無論吾もちゃんと役割をこなす!
だからそんな道端の雑草を見る様な冷たい視線で吾を見るな!」
「別にぃ~」
緊張をほぐす訳でもないでしょうが、冗談を交えながら先を進みます。
頼れる仲間が背中を支えてくれるという安堵感が足取りを軽くします。
やがて大広間に出ました。
前回はここで幾度も襲撃され辟易したところです。
でもこの面子ならば大概の事態は乗り越える事が可能でしょう。
しかし……変です。
以前は小競り合いとはいえここに来るまで幾度か戦闘がありました。
けど、今のこの墳墓内の雰囲気は……
「静か過ぎる、か」
まるで私の内心を見通したかのようなネムレスの指摘。
軽く驚いた私は思わずネムレスの顔を見上げます。
端正な顔をした守護者は鋭く前を見据えながら応じました。
「小動物までいないほど静謐に満ちている。
違和感を感じるのは当然だ」
「どういうことでしょうか、師匠?」
「この様なケースは大よそだが2種類に想定できる。
ダンジョンを構成するコアの破壊による一時的な凪。
こちらはコアが再構成するまでしばらくは大人しくなる」
「……もう一つは?」
「それは無論」
ネムレスが両掌に黒白の双刃を構えます。
シャス兄様も弓に矢をつがえます。
ルシウスも可愛い顔を真剣なものへ変容し備えてます。
平然としてるのはリューンだけです。
自己に対する絶対の自信がそうさせるのでしょう。
私も退魔虹箒を具現化。
闘気を身体に纏い、いつでも能動的に動ける様、準備に入ります。
確かに索敵範囲内及び視界内に脅威は存在しません。
しかしそれはイコール安全という公式は成り立ちません。
この様なケースの場合、それはおそらく――
「何者かの意図による明確な罠だ」
その言葉を核としたかのように、
私達を中心に赤黒い陰鬱な無数の召喚陣が浮かび上がります。
「壁際に寄れ!
陣形を組み直すぞ!!」
それを確認するより早く、ネムレスの怒号が飛びます。
すぐさま応じる私達。
壁を背に半円を組み中に兄様とルシウスを囲みます。
リューンはこういう事態を予期してたのか、
さも当然の様に前衛に出てきてくれます。
泰然自若で余裕綽々なその有様が私達に落ち着きを与えてくれます。
「考えたものだな」
「え?」
「個々の単発的な低レベルなもの達による襲撃では俺達を倒す事は叶わない。
絶対的なレベル差がそこにはあるからな。
だがこのような運用方法なら話は別だ」
次々と召喚陣より吐き出されていく敵性存在。
亡者、骸骨、死霊茸妖魔等々。
よくもまあこれほどと呆れるくらいです。
大広間を埋め尽くすその様はまさに、
「タイプ:軍勢型か。
対処が面倒だな」
忌々しそうに呟くネムレス。
指摘通りまるで軍隊のような密集率をそれらは持ってます。
いつの時代も数は脅威です。
焦りはミスを呼び、ミスはダメージとなります。
一回一回は軽微でも、累積されたそれらはいつか致命的な事態を引き起こす。
これほどの数の敵性存在を相手に、果たして私達は無事に切り抜けられるのでしょうか?
「来るぞ!
各自自分の役割を全うしろ!
戦闘パターンはBの25でいくぞ!!」
「「「了解!!!」」」
心身を鼓舞するようなネムレスの指揮。
そしてその言葉にまるで応じるかの様に、
かの軍勢達は咆哮と共についに襲い来るのでした。
お待たせしました。
更新です。




