苦渋に満ちた決断を下すようです
世界樹。
それは始まりの樹とも言われ、創世の礎ともなったものです。
各地に残る数多の神話。
主神や主体となる様々な主役達は様変わりするものの、背景世界は大体同じ。
即ち世界樹の恩寵を受け世界は繁栄した、というもの。
日本ならば国生み神話の天沼矛に匹敵するのでしょう。
「これが……」
「そうじゃ、世界樹<ヘルヘイム>
……万物の源となったものよ」
半ば強引に導かれた先。
広大な宮廷を貫く様に生えている強大な樹。
いえ、正確な表現を使うなら……
世界樹に間借りするようにして建てられていたのが、この宮殿<ユグドラシル>なのでしょう。
世界樹の威容は凄まじいの一言に尽きます。
屋久島の縄文杉を数百倍にしたような圧倒的な存在感。
溢れる生命力だけでも畏敬に打たれるのに、
ただ在るという事が物理的な圧迫感をも伴います。
「凄い……です。
何も言葉が浮かんできません……」
「それでいいのじゃよ、ユナ。
陳腐な表現はその対象をも陳腐にしてしまう。
凄いものは凄い。
素直にそう言えるのは、汝が純粋な証じゃ」
「そんなことは……(ごにょごにょ)」
「フフフ……まあ時間もない。
汝が果たさねばならぬ試練もあるし、前説はこれくらいにしておくか」
「試練?」
「そうじゃ」
「それはいったい……?」
「急くな急くな。
ほら、来たようじゃぞ」
トレエンシア様が向ける視線の先、
何やら愛らしい小動物を抱えたドライアードが来ます。
傍らには銀の盆と小刀を手にした者も。
もしや……
振り向き問うと、トレエンシア様が重々しく頷きます。
「正解じゃ、ユナ」
「そんな!」
「世界樹の力を借りれば、汝を癒す事は可能。
だがその恩寵を賜わるには世界樹に恩恵を齎さねばならぬ。
通常は生贄を捧げその血肉を以て宛がう。
汝にその覚悟はあるか?」
冷たく言い放つトレエンシア様。
私の視線の前では脅えて身を震わす小動物が蹲ってます。
待ち受ける運命に恐怖してるのでしょう。
そんな私を促す様に小刀を渡してくるドライアード。
凍てつく様な感触が私に覚悟を決めさせます。
誰かの命を以って私と云う存在は支えられています。
生きる事は戦う事。
戦う為には力がいります。
だから私は、
「ごめんね」
そうして私は腕を振り下ろしました。
……小刀を、ではなく小動物の頭を撫でる為。
私の持つ慰撫技能が効力を発揮したのでしょう。
小動物はきょとんとした様子で見上げてきます。
「どういうことじゃ、ユナ。
何故殺さぬ?
汝は傷を癒し腕を再生させたいのじゃろう?」
「ねえ、トレエンシア様」
「なんじゃ?」
「生きる為とはいえ、犠牲が伴うは仕方ないと私は思います」
「そうじゃな」
「けど、自分の都合で誰かの……
何物の命をも無駄にしてはいけないとも思います」
「ほう」
「トレエンシア様の好きなミスティ兄様は幼い頃から自制してる節がありました。
あれだけ強大な力を持ちながら……
まるで力に振り回される事を恐れる様な。
兄様が積極的に命を摘み取る姿は見た事がありません。
きっと誰よりも命の価値を信じたいのだと私は思います」
「ふむ……確かに」
「綺麗事かもしれません。
だけどそんな甘い兄様を……
私は何だかんだ言って尊敬してます。
兄様の悲しむ事をしたくない。
生きる糧となる狩猟以外、私もそんな事を望んでません。
だから……害意があって襲い来る外敵に対する自衛以外、無辜な命は奪いたくないのです。
博愛主義ではありません。
どこまでも利己的な私だからこそ、せめて理想は守りたいんです」
嘘偽りの無い気持ちを率直に述べる私。
呆れられるかもしれません。
貴重な機会を棒に振るなど、馬鹿な判断だと嘲笑われるかもしれません。
けど、これは変えられない私の真実。
誰に恥じる事の無い、私自身の生き方なのですから。
「合格じゃ、ユナ」
「へっ?」
小動物を優しく撫でる私。
そんな私に対し、穏やかに微笑みながらトレエンシア様が語り掛けてきます。
「自らの欲望の為に他者を蔑ろにする……
そんな存在に世界樹は恩寵を授ける事は無い。
誇り高き魂の在り方こそが世界樹の糧となる」
囁くトレエンシア様に同調するように、小動物が光り輝いていきます。
やがて小動物は黄金色に煌めく果実へと姿を変えるのでした。
「これは……」
「なればこそ汝には受け取る資格がある。
世界樹の恵み、黄金の果実を。
さあ手に取るがいい。
世界樹も汝を認めた故に」
トレエンシア様に促され、私は夢遊病者のように果実へと手を伸ばします。
やがて果実へ触れた瞬間、
「くぅっ!」
全身を波濤の様に打ちのめす活力。
私という存在が別個になるような錯覚。
爆発的な気の凝縮。
それらは私の身体の隅々を駆け巡り癒していくと、最後に失われた箇所に凝縮していきます。
ついには……
「ああ……」
「フフフ……無事に宿った様じゃな。
世界樹の欠片たる黄金の果実の力。
さしずめ神威纏いし綬手<ハンズオブレベリオン>
運命に抗う汝には最高の相棒となってくれるじゃろう」
トレエンシア様の指摘通り、
私の手は指の一本一本まで無事に再生され……
ばかりか、語るのも憚れるほどの霊格を宿したのでした。
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ユナの先祖、アルのシリーズも更新しましたので良かったらご覧下さい。




