強引さに困惑しながらも叫ぶようです
「トレエンシア様……」
「そうじゃ。
久方ぶりになるな。
壮健そうとは言えないのが残念じゃが。
リューンより話には聞いていたが……痛ましいな」
私に近寄り抱き締め、愛しそうに頭を撫でてくれるトレエンシア様。
何が遭ったかは詳しく聞かず、ただ慈しみを注ぐ。
慈愛に満ちたその姿に、今はいない母様の面影を見い出し……
少しだけ哀しくなりました。
「だが案ずるな。
ここならば汝の傷を癒し、失った腕を取り戻す事が出来る」
「本当ですか?」
「妾を信じよ。
妾は寵愛児たるミスティの縁者に嘘は言わぬ。
……まあ、都合よく事実を伏せる事が時にあるが、な」
「もう(クス)。
せっかくいい事をおっしゃってたのに」
「フフフ……まあ精霊王と呼ばれる妾とて実態はこんなものよ。
肩書きに沿った役を演じてるに過ぎぬ。
だが道化を演じて汝の笑顔が見れるなら無駄ではないがな」
「あっ……」
口元に手を当てた私は気付きました。
ごく自然な感じで笑えている事に。
昨日から怒涛の展開に流され余裕の無かった私ですが、
トレエンシア様の気遣いにやっと心を落ち着ける事が出来ました。
「ありがとうございます……トレエンシア様。
私の為にそこまでして頂けるなんて」
「な~にお安い御用よ。
ユナには美味しいスイーツを馳走になったしのう。
ここではあのようなものを摂取する事は叶わぬからな」
「そういえば、ここって……?」
「リューンから話は聞いておるじゃろう?
ここは樹の精霊界にある妾の宮殿<ユグドラシル>じゃ。
以前のような服装ならばユナをメイドに召し仕えたいものじゃがな」
「ここが……凄い所ですね」
じっくり周囲を見渡せば、大木を繰り抜いて築かれた様な外壁に豪奢な装い。
調和に満ちた色調と内装からは質実でありながら剛健さを感じます。
あちらこちらから溢れるのは力強い木々の生命力。
さらに先程から視線が気になってはいましたが、
頭を垂れ平伏している数多の女官。
20人以上はいらっしゃるでしょうか?
皆さんとびっきりの美女ですが、身体が半透明で樹の枝葉が生えています。
噂に聞く樹の精霊ドライアードでしょう。
「まあこんな時でなければのんびり観光に誘いたいがな。
時間がないのだろう?
早く移動するとしよう」
肩を竦めたトレエンシア様が指を鳴らすと、
傅いて控えていた女官さん達がワラワラと寄ってきます。
そして更に……
「えっ……あっ、あのっ!
きゃうっ! だ、駄目です!」
何故か皆さん素敵な笑顔で私の身体を拘束し、服を脱がせようします。
「フフフ……ユナよ。
そいつらの好きにさせてやるがいい。
害意はない。
ただこれから行く場所に、ユナのその服装ではあんまりなので着替えさせようとしておるだけじゃ」
「ふ、服装は分かりますけど、何処にです!?」
強引に衣服を剥ぎ取られ、薄絹の清浄なドレスを纏わされながら私は叫びます。
その問い掛けにトレエンシア様は片眉を上げながら応じます。
「決まっておる。
この世界の中心にして妾の宮廷の象徴。
樹木の聖域にして生命の源、世界樹じゃよ」
呆然とする私に、トレエンシア様はどこぞの姉様の様な微笑で応じるのでした。




