悪戯が成功した童女のようです
「ゲート……?」
「うん。そうだよ」
「どういうことです?
シャス兄様、転移って……」
「それは……」
「その辺にしておけ、シャスティア
あまり時間がない」
「はい、師匠」
「ネムレス……?」
「詳しくは後程話そう。
まずは移動だ、ユナ。
服を着替えたまえ。
俺達は外で待っている」
未だ憤慨しているリューンを強引に押し出し、ネムレスとシャス兄様は部屋の外へと出て行きます。
いったい何なのでしょう?
ゲートって確かワープする扉みたいなのですよね?
それが今の私にどう必要なのでしょうか?
数々の疑問を抱えたまま私はファル姉様に手伝ってもらい、動きやすい服装に着替えます。
「ファル姉様、ネムレス達は何を……」
「さあ? 詳しくはわたくしも存じません。
ただ、今のユナ様の状態には必要な事だと伺っております」
「それって……」
「ユナ様、御存知ないかもしれませんが……
存在強度指数、俗にいう<位階>というものを聞いた事はありますか?」
「<位階>……ですか?」
「はい。対魔族戦闘の要ともなる概念です。
わたくし達のような人族とは懸け離れたもの達は世界に存在する力<イデア>が強大です。
イデアとは世界が認識するその存在の意義。
これが強固なものほど壊れにくく滅びにくい。
更に厄介な事に、物理的に破壊しても位階が低位な者にならばすぐに復元してしまうのです」
「それが魔族の持つ復元力の正体ですか?」
「ええ。これらの高位存在に対し通常攻撃では効果が薄いのです。
無論対象がもう無理だと認識するまで根性を込めて攻め続ければ有効ですが。
まあ普通は先に根負けしてしまいますわね。
だからこそアストラルを通してイデアを打ち砕く事が可能な術師達が重宝されるのですけど」
「納得です」
「しかしこれには隠されたもう一つの意味合いも含みます」
「?」
「高位存在につけられたダメージは、
時としてアストラルで形成されるイデアをも傷付けてしまうのです。
そうなれば再生どころか治癒することさえ出来ない」
「そんな事が……」
「魔族や闇魔術が厭われる理由で御座います。
話を戻しますが、突如庭先に転移してきたお二人を見た時、
ルシウス様の無事は一瞥で把握できましたが、
ユナ様の傷の異常性はすぐに察知致しました。
闇の瘴気を纏った損傷……
つまりは墓所の主かその眷属とやり合ったのだと。
そうなれば治療はおろか、延命すら難しくなります。
幸いリューン様から頂いた尻尾飾りがあるから即死には至ってませんが、
その傷は本来致死性のモノなのですよ」
え~~~~~~~!!
聞かされた驚愕の真実に、思わず包帯の巻かれた左肘を見ます。
鮮やかに断絶された傷口。
生々しささえ感じられたソレの先に、気を集中して凝視すると、確かに黒く淀んだ思念の様なものが渦巻いていました。
「ガンズ様から伺った話ですと、
霊廟に住む白面の者は瘴気を具象化した魔糸を扱うとのこと。
おそらくユナ様の傷もそうなのでしょう?」
「はい……」
「ならば幸運でした。
心臓に近い所に傷を負えば幾ら生命力に溢れた一角馬の体毛とて防ぎきれなかったでしょうから」
「そ、そんなに怖いものだったんですか……?」
「ええ。即時撤退を決意されたカル様の反応は正しいと思います。
まあそんな事前情報もあった為、運命石でネムレス様と交信しておいたのです」
「え?」
「リューン様を通して打開策を講じられるように、と。
幸い親しい間柄もあり、かの方に連絡を付け、すぐに対応してくださいました」
「? どなたですか?」
「それは……勿論」
着替えの終わった私達は話しながら外に出ます。
戦装束に身を包んだネムレス。
弓手の防具を身に着けたシャス兄様。
純白のローブを身に纏ったリューン。
皆が注目するその先、村外れにある我が家でも一際古びた大きな木の根元、
ぽっかり空いた洞の中が妖しく輝きを放っていました。
「樹木の精霊を束ねる偉大なる樹の精霊王。
樹聖霊トレエンシア様に、ですよ」
度重なる驚きにぽか~んとする私に、
ファル姉様は悪戯が成功した童女のような微笑みで応じるのでした。
以前にも書きましたが自分の小説は即興劇に近い形になります。
表現したい決めのシーンを考え、その場面に到るように描写していくみたいな。
設定を与えてこのキャラならこんな行動や台詞を言うよな~と推定。
使わない~もう使えない設定でいえば、今回の王子様騒動。
元は、
巡回してきた地方領主。
ユナのメイド喫茶を偶然目撃しファンに。
スカート捲りをするくそガキチックなお子様あり。
だけで書き始めてます。
だから最初、ルシウスの一人称はオレ様だったんですね。
跡取り騒動を通して立派な後継ぎに成長していく……
みたいなものを書こうと思ってたのですが、何故かこんな流れに。
焼き芋>腹を空かせたルシウス>どうして?
追っ手に追われて>何故?>王都の跡取り騒動
のような連想ゲーム(だから矛盾点が多いと思います)。
他にも没になった設定は多く、例えば母様ことマリーは誘拐ではなく一部で死亡予定でした。
しかもあんな敵役達によってではなく、伝染病に罹患した患者の看病によって。
ある日村外れに病人>担ぎこまれる治療室>伝染病発覚
他者の感染を恐れ家ごと自分と患者を隔離するマリー
数日後、泣いて感謝する患者と満足そうな笑みを浮かべ死んでる母の姿
ユナは自己犠牲の塊のような母に慟哭し成長する……
みたいな筋書きです。
まあ遠足からあんな騒動に発展したのでこちらの案はボツですが。
こんな感じで設定とは全然違う話になっていくのですが……
それがまあ小説の面白いところですね。
良かったら感想とかに見たいストーリーを書いてみてください。
極力要望に応じる性格なのでシナリオが変更されていくのが分かりますよ。
では最後に、やりたかった第三部のエンディングシーン。
「きゃああああああ!!
いきなり何をするんですか、ルシウス様!」
「ほう……今日は黒か。
以前の様なガキっぽい白じゃないんだな」
「前に指摘されから替えたんです……
って! まずはスカート捲りする方がいけないのですよ!」
「ははは……怒るな怒るな。
可愛い顔が台無しだぞ、ユナ」
「もうっ! いつも口ばっかり!」
「いやいや本当だぞ?」
「怪しいです!」
「まあそう言うな。
それに……今回は父上共々世話になったしな。
感謝してる」
「ルシウス様……」
「そうだ、ユナ。
一つ提案があるんだが」
「何でしょう?」
「もしオレ様が一人前の男になって父上の後を継いだら」
「はい」
「妃としてお前を迎えに来てもいいか?」
「ん~そうですね。
ルシウス様が素敵な男性になってたら、その時は」
「その時は?」
「考えておくです(にっこり)」
「ふっ……ならば約束だぞ、ユナ!」
「ええ約束です……私と、ルシウスの」
沈む秋の夕陽。
薄暗くなる中そっと交わされる再会の約束。
それを静かに見守るのは、紅葉し始めた木々と……
溶け込むように隠形し、歯噛みしながら動揺するストーカー(カルとリューン)であった。
(余韻台無しEND)




